忍び寄る悪夢……冷笑する虚無
エキストラボス乱入デモ


 風を身に纏い欲望に身を膨らませた男は、
 拳という名の一対の翼によって、敗北の園へと羽ばたいていった。
 破壊と炎の女神は微笑みながら慈愛の抱擁を与え、夢と欲望と血に塗れたバビロンの塔たる高層ビルは虚ろに哭き崩れる。
 爆発がビルを破壊した。

 運命のロンドに踊らされし彼の者の、その身、その命を継ぎ止める足元の床たる虚空の礎は脆くも砕け散った。
(死ぬ……私が死ぬ!?)
 残骸の濁流に飲まれ、死神の手招きにその瞳を閉じる。
 だが、暗がりの大地へと落ちていく身体は、何も起こらなかった。
(何も……起こらない?)
 瞳を開けて見る世界は、全てが時の狭間にいた。
 暗闇の中、崩れた床も、ビルの残骸も、自分自身も、何もかもが空で動きを止めていた。
「恐怖、絶望、死」
「声……?」
 そして、闇の中から、破滅のあぎとが牙を向いた。
 時さえも静寂してしまったと錯覚する空間で、残骸に腰掛けている一人の少年がいた。
「恐怖、絶望、死」
 少年は立ち上がると、蠢く憎悪が忍び寄ってくるように、何も無い空間を歩き近寄ってくる。
「ここにあるのは途絶えることの無い恐怖。
 世界の果てにあるのは消えることの無い絶望。
 そして一縷の望みは死」
 黒いズボンに黒革靴。
 真っ白な柔らかそうな生地のシャツに、襟元は細いループタイ。
 手には薄暗く輝く魔法円が縫い付けられた黒革の手袋。
 短く切った銀髪の一箇所だけ薄緑色に染められ、未だ幼さの残るだろう素顔には、半円形のミラーグラスが、瞳を、意思を覆い隠してる。
「だがしかし、君は諦めてはいない。
 むしろ、強き希望が、雄々しくはばたいている」
 少年の額の左目の上辺りに、唐突に『鍵穴』が開いていた。
 この鍵穴こそが少年の印象をより不自然なものに仕立て上げていた。
 その穴は闇の世界につながる地獄門のごとく、漆黒に彩られている。
 鍵穴の世界から憎悪にも狂気にも思える
 何者かの視線さえ感じる……深く、輝く暗黒。
「俺の名はアルシャンク。
 人の瞬く間を住処とし、刹那を永遠として生きるものだ」
「アル……シャンク!?」

「お前の希望が如何なるものなのか、見せてもらおう」



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