蒼き戦慄の炎

〜2〜

「ちょっと、待ってーー!」
 帰路の途中、庵は呼び止められて、足を止めた。
 振り向くと、セーラー服の少女がこちらへ走ってくるのが見えた。髪は短く、白いハチマキを締めている。
 少女はたどり着くと……全力で走ってきたのだろう……しばらく曲げた膝に手をあてながら、激しく呼吸をしていた。
 やがて息を整えると顔をあげた。
「あの……さっきは助けてくれて、ありがとうございました!」
「別にお前を助けたつもりはない。奴が気に食わなかった。それだけだ」
 庵はきびすを返す。
「わー、待って!」
 顔だけを向けた。
「なんだ」
「結果的には助けてもらったんだし、お礼が言いたくて……」
「別にいらん」
 興味が失せたように歩きだす。
「あああ、ちょっと待ってよー!」
 少女が後ろからついてくる。
「あ……えーと、あたし、春日野さくら、ていいます。貴方は?」
「言う必要はない」
「うわ!? にべもなし!?
 それじゃあ、言う必要がないさん、名前を教えてくれるまで貴方のことを、言う必要がないさん、て呼んじゃうからねー。言う必要のないさーん」
 庵は足を止めると、体全体を少女……さくらの方へと向ける。
「庵だ。八神庵。わかったら、とっとと失せろ」
「庵さん……だね」
 さくらは微笑むと、手を振った。
「じゃあ、庵さん。またねー!」
 そのまま、軽やかな足取りで走り去っていく。
 そんなさくらを見送りながら、庵は小さく呟いた。
「『また』……だと?」
 しばらくたち、庵は苛立ったように舌打ちした。

次へ
前へ
小説の部屋へ