蒼き戦慄の炎
〜3〜
アパートの一室、庵は己の部屋にいた。娯楽的な要素が何一つ無く、必要最低限なものしかそこにはない。
あるとすれば、バンドをやっていることを思わせるベースギターが一つ。それだけだった。
ベットを腰掛がわりに座る庵の前に、影が一つ現れた。
蛇だ。しかも体長は庵自身よりはるかに大きい、大蛇である。
庵は大蛇に視線を移すと、吐き捨てる。
「また貴様か」
「そう邪険せずとも良いではないか。八神庵よ」
「目障りだ。失せろ」
「これはこれは嫌われたものだ。だが」
蛇が『笑った』。表情筋が無い蛇が笑うことはないはずなのだが、確かに蛇は笑った。
「お前にオロチの血が流れる限り、我は何度でも現れる」
「……いい加減にしろ。殺すぞ……!」
「く……くくく……くくくくく。今の貴様に、内なる者を消せやしない。
もっとも……他にも簡単な方法はあるがなぁ」
蛇は、庵にまきつくと、耳元でささやいた。
「人を慈しむだけでいい。思いやるだけでいい。そしたらすぐにでも消えてやる」
「……」
「貴様にできはしない。できやしないのだ。それは貴様が良く分かっているはずだ。
八神庵よ。
貴様にできるのは人を憎むこと。拒絶すること。血を求めること」
「黙れ……」
庵の手に、紫の炎が燃え上がる。だが、蛇は臆した様子はない。
「憎め。殺せ。破壊しろ。我を受け入れろ」
「黙れ!」
庵は炎を撒き散らす。部屋のあちこちを焼き焦がす。床に火が燃え上がり、だが、燃えるものがないのか、すぐに小さくなっていく。
蛇の姿は消えていた。
庵は口元を苛立ちで歪ませた。
そして。
「ぅぅぅぅぅぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」
獣のように吼えた。
抑制することのない殺意と憎悪をのせて。
どん! と、一つ。音がなった。
「うわぁ!? な、何、今!?」
それは扉の向こうから聞こえた。