蒼き戦慄の炎

〜5〜

 『ストリートファイター』の発祥は、一説によると、よくある路上の喧嘩であったという。
 ただ単純なる拳での殴りあい。血を吐き、血反吐を吐かせ、相手を倒すまで戦う。もっとも原始的でもっとも野蛮な行為。
 だが……その路上の喧嘩は、『素晴らしかった』。
 見ている者が誰しも、興奮し、熱狂し……感動した。
 『観客』は彼ら……とりわけ勝者の闘いぶりを評価しチップを投げてよこした。
 それが始まりである。

 現在もストリートファイターは多い。といっても、その闘いだけで生活できる者は少なく、趣味で闘う者もいる。
 二人の男女が公園にいた。彼らもまた、『ストリートファイト』で出会い……戦う。
 庵は折れた枝を拾うと、さくらを中心に大きな円を描いた。
 枝を投げ捨てる。
「ハンデだ……貴様が俺を円から出したら、勝ちにしてやる」
「……というか、なんでストリートファイトなの?」
 さくらは口を開いた。あからさまに『ねぇ、何で?』という顔をしている。
「フン……貴様はストリートファイターとやらなのだろう? ならば、貴様の目差す道は力で示すのだな」
 さくらの身体に一筋の電撃が走り抜けた。
 当たり前で、大切で、忘れていたこと。
(そうだ……あたしはストリートファイターなんだ……だから戦うんだ!)
 大きく息を吸う。腹の下……丹田に『気』が練りこまれ、身体の中を駆け巡る。
 迷いは……無い。
「よし……いくぞ!」
「すぐに楽にしてやる」
 二人は同時に構える。
 さくらの構えは空手に似ている。
 一方の庵は……。
(……こんな構え、初めてみる)
 率直な感想である。
 普段の庵は背を真っ直ぐにしているが、構えは猫背ともいえるくらい低い。
 手も独特である。
 殴ることを主体にした構えの場合は、拳を握る。手のひらで打つ、あるいは叩くことが主体の場合は手を広げる。柔道などの投げを狙う場合の構えは最速で掴めるようにある程度に広げている。
 だが庵の手はだらりと広がり、下方に向いている。
 打撃系? 投げはあるのか? 蹴りはあるのか?
 さくらには全く未知数の相手であった。
(考えていても、しょうがない!)
「波動……」
 さくらは手に『気』を手に集める。『気』は科学的に証明され、分子よりも小さい粒子である可能性であるといわれるエネルギー。
 それを塊にし、一気に外部に放つ技……『波動拳』。
 さくらが波動拳を放とうとした瞬間。
「……!」
 鮮血が飛んだ!
 気を集めるのを見るやいな、庵はさくらの間合いに一気に駆け寄り、爪で腕を斬り裂いたのだ。

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