自由を求めて

〜1〜

  ネスツ滅びる日。
「何故だ!? 何故だ!?」
 それは神になれなかった男の最期の日。
「人は新たな神を望まぬというのか!?」
 ネスツの本拠地は宇宙に存在する。だが今それは爆発と分解を繰り返し、地上へと落ちていく。
 野望は潰え、滅びを目差す。
 残された勝者たちは、落ちゆく宇宙要塞の中に、燃え盛る炎の中にいた。
 褐色の青年は、蒼色の髪の少女へ顔を向けた。
 お互いの瞳が静かに交差する。
「いけるか?」
「うん……やってみる」

 ネスツ……NESTSは存在そのものが謎の組織と言えた。
 ただ分かっているのは、世界最強と噂される格闘家・草薙京を誘拐したこと。
 草薙京のクローンを大量に作り世界各国を制圧しようとしたこと。
 衛星砲撃により、都市1つを壊滅に追いやったこと。
 草薙京の力を移植した、世界最強とも言える『改造人間』を数体作ったこと。
 改造人間たちを利用し、ネスツの創始者は神になろうとしたこと。
 そして。
 ネスツは彼ら改造人間によって滅ぼされたこと。



 現在、改造人間のグループは大きく二つに分かれる。
 自分の失われた記憶を探しあてのない旅を続ける者たち。彼らのうち1人は元々軍部に所属したいたこともあり『「彼女」と個人的な仲間たち』という幸運にも好意的な扱いを受けている。
 もう一方は、自分の力を過信し、戦い続けている。敵であろうが、元同じ組織の人間だろうが見境なく、徹底的に。圧倒的に。



 人種の坩堝(るつぼ)と呼ばれる国がある。多くの人間・人種を受け入れ、入り混じり、暮らす国。髪の毛だけでも銀髪、金髪、赤毛、黒髪、緑……虹の色以上に鮮やかな色数がそろっている。そんな街中に、銀色の髪、褐色の肌、皮製のツナギを着た16〜18の青年が歩い
てもさほど気になる存在ではない。ただ、サングラスで目線を隠しているが雰囲気で分かることがある。この青年は、自分以外の人間にほとんど心を許していない。敵対心をもっているわけでもないが、友好になりたいとも思わない。そんな雰囲気だ。
「K´ーーー!」
 女の子の声が響き渡る。K´と呼ばれた青年は顔を声の響く方へ向ける。K´より少し離れた場所にあるアイスクリーム屋に二人の少女がいた。
 片方はK´と色違いのツナギの服を着た14ほどの、しかしやや背の高い金髪の少女。
 もう片方は、黒髪を肩まで伸ばした16ほどの少女。
 K´の雰囲気が、かなり和らいだ。少なくとも、彼は彼女たちには心を許しているようだ。ただ、それに相反するように口元は大きく『へ』の字に曲がったが。
「何やってんだよ……」
「ほらほら、みてK´! 美味しそうなアイスクリームがあるよ!」
 色違いのツナギの服を着た少女が答える。
「……だから何だよ……」
「K´、買って買って!」
「……」
「いいじゃない、減るもんじゃないし」
 隣にいた黒髪の少女が答える。
 K´は小さく嘆息した。
「金は減るだろ……」
 金髪の少女の名前はクーラ・ダイヤモンド。黒髪の少女の名前はウィップ。
 彼ら3人は、ネスツの生み出した改造人間たちであった。特にK´は改造人間の中で最高の力と言われているほどの存在である。もっとも自分の名前『K´』以外、断片的にしか過去の記憶が思い出せないでいる。そもそも『K´』が名前であるかどうかも怪しい。
 一方のクーラは『アンチK´』と呼ばれる存在でK´と対等の力を持った存在であった。組織の中にずっといたため、一般的な知識がやや乏しが、子供のように純粋無垢である。
 ウィップもまた改造人間であり、K´の姉である。幼い頃単身で組織を抜け出し、軍部に所属した。ネスツを潰すため。記憶を取り戻すために。もっとも、ウィップを含め、彼らは自分の記憶はほどんど戻らなかった。
 だからこそ、彼らは『自分を探す』ために旅をしている。
「アイスー、買ってよK´」
「……しかたねぇな」
 K´が、金を出そうと、ポケットのサイフに手を入れかけたとき。
 腹に響き渡る一発の爆発音が轟いた。それは目の前のアイスクリーム屋から発生されたものだった。正確には『アイスクリーム屋が潰れる音』だった。
 さらに正確に表現するならば、『何らかの物体がアイスクリーム屋に降ってきて、潰した』のである。
「ちっっっっっっっっくしょぉぉぉ! こんなところまで追ってをよこしやがって!」
 そこに二人の男女が倒れていた。片方は小さい少女で人間であろう。しかし、男の方があからさまに人間とは言い難い姿をしていた。絵の具のような白の肌、白一色の眼球、頭髪は一切ない。所々に謎のペイントが施されれている。
「あーーー、アイスクリームが!」
 クーラの第一声はそれだった。
 K´とウィップはすぐに臨戦態勢に入る。
「イリア、上!」
 少女の声に、イリアと呼ばれた男だけでなく、K´たちも顔を向けた。
 そこには、更に人間とは言えない存在がいた。
 服など着ていない。それどころか、口も鼻も耳も無い、男女の区別できる要因すらない。あるのは手足と頭部と、辛うじて小さくある眼球だけ。
「0100010111010101010111000111000000101011101001100101010111110000011011111」
 『それ』は確かに『そう』言った。



 爆音。
 海に落ちたネスツの本拠地には。
 爆音。
 爆音。
 今でも二人の人間が留まっている。
 爆音。
 爆音。
 爆音。
 そして彼らを倒すため軍部のヘリは、何機、何十機、何百機、何千機も訪れる。
 そして、撃ち落される。
 たかが素手の人間に、『素手』で。
 爆音爆音爆音爆音爆音爆音爆音爆音爆音爆音!!!!
「やっちゃえやっちゃえ! もうアタシたちに怖いものなんてないんだ!」
 露出の激しい19の少女が嬉々として叫ぶ。
「はぁはははははっははははは!」
 少女から少し離れた所にいる16ほどの少年は笑い声を上げた。
 少女の名前はアンヘル。
 少年の名前はK9999(ケーフォーナイン)。
 共にネスツの改造人間であり、戦いを好む。
 K9999の左腕は、巨大化し、別の生き物のように蠢き、赤と青の血管が波打ち、そして、再び不幸な軍部のヘリを叩き落している。
「はーははははははははははははは!」
 K9999は笑い続けていた。

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