スーパーロボット大戦
スノーマウンテン

第6話


 猛吹雪の中をノリスが操るグフ・カスタムは、飛行しているキングゲイナーとツインビーに背中を押され、強引ながらゆっくりながら前進していった。
 グフ・カスタムの後方は、メタルスラッグ形態に変形したスラグガンナーがバックで前進しながら、哨戒活動を行っている。

「わ、わるもんはかせー、あ、あなたを世界一の科学者とみとめますー」
「まだ、固いわ! 『ワルモン博士〜☆ 貴方を世界一の天才科学者と認めます〜☆』だ!」

 という会話があったかどうかは置いておくとして。

「見たかツインビー! 宿敵パステルでさえ我輩に屈したぞ!」
「おいおいワルモノ博士……単に声が似ているだけなんだぞ」
「ライト……そっとしておくビー。あれで満足ならば、あえて突っ込まないのも良心ってもんだビー」
「我輩を痛い人みたいな言い方をするな――――!」

 とかいう会話があったかどうかは置いとくとして……あの後、光はワルモン博士から兵器の位置を聞き出すことに成功した。

「あの、兵器の位置だがな……待っておれ」

 そういうとワルモン博士は、懐からレトロ風味の簡易レーダーを取り出した。
 そこには、精密までに現在地点と兵器『スーパーカチコチ君』の位置が示されていた。

「なんでレーダーが使えるんですかぁ!?」

 それを見て、フィオが素っ頓狂な声を上げた。

 今、この空間は高密度のミノフスキー粒子に包まれている。
 ミノフスキー粒子とは……科学的な解説はこの際、省くが……電磁波、電波、そういった類を無効化する粒子である。
 分かりやすく言うとミノフスキー粒子が散布された地域は、携帯電話も使えず、衛星放送も見れず、ラジコン飛行機も飛ばない、という感じである。
 ジオン軍はこのミノフスキー粒子を利用し、連邦軍のレーダー、ミサイル兵器、通信機器を無力化させ、モビルスーツによる接近戦で大々的な勝利を収めたことがある。

 以後、大戦ではミノフスキー粒子が意図的に撒かれ、戦況に使われることが多々ある。
 フィオは連邦軍の情報部に所属しているだけに、ミノフスキー粒子の厄介さは身に染みて知っている。

 それだけに、こうもあっさりレーダーを使っていることに驚かずにはいられなかった。

「我輩を誰だと思っている! 世界一の天才科学者ワルモン博士だぞ!
 あんな粒子で見れなくなるような貧弱なレーダーなど作らんワイ!!」
「わぁ、凄いですぅ」

 フィオはどうやら本気で感嘆しているようであった。
 声にこそ出さないもののノリスでさえ驚いている様子であった。
 自称天才は、伊達ではなかった。

 その後、移動手段に関してもワルモン博士の意見が採用された。

 ここにある一番巨大な兵器グフ・カスタムのパワーと図体を利用し、それを後ろから、ツインビーとキングゲイナーが飛行しながら後ろから押す、といったものである。
 ゆっくりではあったが、確実に前進する方法であった。
 なお、『手』がないスラグガンナーはメタルスラッグ形態となって、後方の守備に回っていた。

 そんな中、光はグフ・カスタムのコクピットに入っていた。
 光がついて行きたいと申し出をしたからだ。

 最初、勢い勇んでツインビーに乗るようにライトが名乗りを上げたが、一人乗りに近いツインビーでは場所が少なく、そもそもワルモノ博士が同乗しているため、搭乗は無理と判断。
 完全一人乗りとして設計されているメタルスラッグシリーズ同様、スラグガンナーには乗り場が無く、キングゲイナーに至っては『飛行経験が無い者がオーバーマンに乗れば、まず吐く』というノリスの一言から、ゲイナーも無理に薦めることが出来なかった。
 どうやら、ゲイナー・サンガはキングゲイナー初乗りの時に酔った経験があるようだ。

 そのため巡り巡って光はノリスと共にグフ・カスタムのコクピットにいた。

 コクピット内部では、奇妙な沈黙に包まれていた。
 最初に光がコクピットの乗り込む際に挨拶しただけで、以後、会話らしい会話が無いまま、グフ・カスタムは前進していた。

 光は声が掛けられずにいた。
 友を心配し、急く気持ちと、目の前にいる親子ほど歳の離れた歴戦の戦士が放つ形容し難い雰囲気が混ざり合い、それが絵もいえぬ色となって声を出すことをはばかっていた。

「光よ」

 光の全身に緊張が走り抜けた。
 声を掛けられたときのことを考えてなかったのだ。
 何か喋ろうと、口を開閉しているが、言葉が紡げない。

「私が恐いのか?」
「……い、いえ、そういうわけでは……」

 光は普段の口調は、少年のような口調である。
 だが、目上の人間などにはこんな感じに丁寧語で答えている。

「それとも……何も出来ないことに焦っているのか?」
「!!」

 ずばりと、正解二つを言い当てられたことに光は息を呑んだ。
 ノリスはただ操作を続けていた。

「私とてそうだ。恐怖と焦りを心に宿している」
「貴方も……なのか?」

 先ほどの驚きに、さらなる驚きが追加されたことで、光は思わず普段の口調で喋っていた。

「私にも、どうしても助けたい者がいる。あの吹雪の中に。
 そして吹雪に無力である自分に焦り、あの方を失ってしまうかもしれない恐怖に苛まれている」

 光は、黙ってノリスの言葉に耳を傾けていた。

「だが、ようやく前進出来た。まだだ。恐怖に負け、己の無力さを呪いにはまだ早すぎる」
「でも私は……この状況で何も出来ないでいる……」
「何も出来ない? 違うな。あの状況で道を開いたのはお前の言葉だ」
「私……の」
「あの自称天才科学者から兵器の位置を聞き出せたのは、他ではないお前がいたからだ」

 ノリスは喋り終えると、最後に言葉を付け加えた。
 普段と変わらぬ口調で、夕食か何かを尋ねるように自然に。

「感謝している」
「!!」

 この時、光は本当の意味で悟った。
 苦しんでいるのは、自分だけではないことに。
 自分自身が帰れないことに、己の無力さに焦り嘆いているのと同様に、他の人もまた焦り嘆いていたのだ。
 辛いのは自分だけでないのに、自分だけが苦しんでいるように錯覚していた。

(私はあの時、理解したはずだったのに……。
 辛いのは自分だけじゃないと知っていたはずだったのに!!)

 この時、光を中心に、微弱だが炎が溢れていた。
 そのことに、光もノリスも気づいていはいなかった。

「あの……私の方こそ、ありがとう」

 光の言葉に、ノリスはただ、笑みの形に口を歪ませただけたった。



 BF団策士諸葛孔明が配下、南蛮王孟獲は暇を持て余していた。
 指示通り田舎科学者のロボを奪い、それを利用してこの大陸を雪で多い尽くそうと大吹雪を発生させていた。
 だが、それだけで他にすることが無い。
 寒いし。

 その時、孟獲は敵の気配を察知した。
 ジオン軍の青いザクみたいなものと、変なロボットが3機。

「ふふふふ。ちょうど暇を持て余していたところだ。どぉれ、遊んでやるか。
 『スノーマン』よ、吹雪をやめよ!」

 『スノーマン』。
 それはワルモン博士が開発した『スーパーカチコチ君』に対して、孟獲が名づけた名前である。
 スノーマンは、孟獲の言葉によってぴたりと吹雪を止めた。

「いでよ! からくり木獣ども!」

 そして、孟獲の言葉に従い、辺り一体から巨大な木製の獣が次々と出現した。


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