月影なのはは諦めかけていた。 彼女は、格闘家だった父に憧れ、空手を始めたにも関わらず、彼女は強くなれない。 自分には才能がない。 いくら鍛えても、何も掴めない。 絶望が彼女を支配しかけていた。 ふと歓声が上がった。 何気なくそちらを向くと、駅前の電化製品の店に陳列されたテレビで、 ムエタイの試合が放映されていた。 画面の中では、小柄な少年と、その倍はあるであろう巨漢のファイターの試合が行われている。 なのはの心臓が跳ねた。 上背のない少年を自分と重ねてみる。 だが、画面の向こうから少年は、明確にそれを拒否してきた。 彼は、楽しそうだった。 凄惨とも思える試合で、彼は笑っていた。 相手を卑下したり、諦めた作り笑いではなかった。 闘えることを喜んでいる。 楽しんでいる。 なのはの心臓がもう一度、跳ねた。 少年の名前は、日向義仲。 彼に才能とか、天分とか、能力とか、運命とか、そんな言葉は通じないように思えた。 そんな些細なものは、拳脚で、打ち砕く。 それを証明するかのように、少年の必殺の蹴りが、巨漢の対戦相手を見事打ち倒して、試合は終わった。 なのはは、自分が拳を握り締めていることに気づいた。 わくわくする。 拳を捨てる前に、彼と戦ってみたい。 幸運だった。 なのはと義仲が闘う機会が訪れたのだ。 義仲のジムの館長と、なのはの師匠、藤岡が友人だったのだ。 そこで奇跡が起こる。 |
それが、すべての始まりだった!
少女の翼の先にあるものを求め、多くの者たちが引き寄せられるように集まる。
「あん時のカリ、利子付きで返してやらあ!」
立ち塞がる日向義仲。
「…そうやって拳に打ち込める…貴方が羨ましいよ…」
寂しく迷いの笑みを向ける天才と呼ばれた少女。
「俺と闘え!」
かつて、天から堕した男は、最後の夢のために拳を振るう。
「奇跡を待つより捨て身の努力! これが勝利の鍵よ!」
結ばれぬ運命を捻じ伏せる鬼合の女子高生。
「俺にとっては、ここは通過点だ! ここでくじけてらんねぇんだよ!」
がむしゃらに無敵を目指す、熱き漢。
「君と……戦いたかったんだ……」
道化の仮面を捨て、再び夢を見るレスラー。
「夢と命と、どちらが大事ですかな?」
圧倒的な力の前に夢を奪われた老人の枯れた心。
「臆病者は地面を這っていろ。私はただ……昇りつめるのみ!」
果てしなく上を見続ける空虚の帝王。
「もっと傲慢であれ。自分の関わる全てのものを不幸にしろ」
飽くなき野望に身を染めた男の執念。
そして、妖術師が笑う。
「希望は他人に食われる為にあるのさ──」
翼 FOW 拳