FOW閑話シリーズ
風切羽

作者 蓮華さん

【風切羽】

「ヒユキは何処に行ったのかな……」

見慣れない風景に戸惑いながら、頭を掻いていたのは茶髪と金髪が混じったような髪をした青年だった。
スーツを着ているが、今の表情とあわせてみるとどうも似合っていない。困っているという表情が全面に出ていて
せっかくのスーツのイメージを台無しにしているのだ。本人は気にしていなかった。上着を片手に持ちながら
ヒユキと呼んだ人物を捜すことにしたのだが、見つからない。
元々ここに来てしまったのはミスからだった。眠ってしまったために落ちる予定の場所から、離れたところに来てしまった。
電車はしばらく来なかったので時間つぶしをしていた。
考えた末に自分も歩き回ることにした。状況を悪化させるだけかも知れなかったが、改善するための手はあった。
のどかな町だった。あちこちを歩き回ってみるが、彼の探している人物は見つからない。
歩いていて、たどり着いたのは森林公園だ。
彼にしては随分と久しぶりにのんびりと出来ていた。最近は忙しかったのだ。ミスをしてしまった。
探している彼女の言葉で言うのならば『怪我の功名』だ。

「何だろう?」

ジュースでも買おうかとした時に微かな声がした。スーツの上着から、取り出した財布を再び仕舞った。
声のする方向を見ると、繁みの間に鳥の巣が落ちていた。珍しいものを見たと彼の表情が変わる。
五匹ほど巣の中に入っていて、ピー、ピーと鳴いている。
見上げると、数メートル上の枝に鳥の巣があったと想われる場所が見えた。見てみると、木登りをすれば
置けるような場所にあった。別の方法もあることにはあるのだが、それをすると探している彼女が怒るのだ。
スーツの上着を木の根本に置くと、片手で木の枝を掴み、もう片方の手で巣を支えながら登っていった。
使えるのは両足と片手だけだったのだが、これだけで十分だ。手際よく木を登り、元の場所へと到達した。
鳥の親が居ないことを確認するとそっと巣を置いた。ここから地面までは数メートル有り、
例えるならば学校の二階程度の高さがあった。
登っているのと同じ調子で降りるのが面倒になってしまったので彼はここから飛び降りた。
登るのに時間はかかるのだが、降りるのはたやすかった。重力があるからだ。
下手をすると足の骨でも折りそうだったのだが、下手をしなかった。彼は見事に着地した。
もしも勘がいい人が見れば、足下にクッションのような『何か』があったように見えたのだが、そう言う人物は居なかった。

「わっ!」

上着を持とうとすると、そこには赤い髪のぼさぼさとした三つ編みのフード付きの緑のトレーナーと
青のジーンズを着た少女が居た。手には、格闘技練習用の茶色いナックルガードを着けている。
いきなり彼が降ってきたので驚いているようだ。

「驚かせた?」

……いきなり木から降ってくればそれは大抵の人間が驚くような気がするのだが……。

「い、いきなり降りてきたから」

落ちてきた。ではなく、降りてきた。意図的にやったことぐらいは少女にも解った。

「さっき、アマツバメの巣が落ちていたから、あげてたんだ」

「アマツバメ?」

「余り町中には居ない鳥だよ」

アマツバメは普通、高山や海岸線に巣をはるのだが、こんな町中で見られるとは……と青年は嬉しくなっていた。

「私はここに空手の稽古途中に来たんだけれど、貴方は?」

「人捜しをしてるんだ。あるいは散歩かな」

スーツの上着を拾いながら青年は答えた。上着を拾い上げたときに少し表情が変化をしたのだが、少女はそれに
気付いていなかった。少女が上を見るとアマツバメの親が雛たちに餌をあげようとしているのが解った。

「あれがアマツバメ?」

「そうだよ」

「あ、そうだ。私は月影なのは、貴方は?」

「翆(スイ)って言うんだ。空手…してるの?」

スイは自己紹介をした。上着を持つと、片手に抱えた。

「もう少しで大会が始まるから」

格闘技の知識が一応あるスイだが、なのはは格闘技には向いていないように見えた。身長が足りなかった。
それで勝負が決まるわけではないが、ハンデが多かった。スイはなのはに不思議な気配を感じていた。
不思議な気配は色々な種類があるのだが、何処か力強い気配だった。

「羽ばたいてる……」

澄んだ空の下を鳥は飛んでいた。都会の空気では濁っているように見える空がここは綺麗に見えた。

「青は絶望と悲しみの色だって言ってたな……ヒユキ……」

「そんなことはないと想う!」

スイが言った言葉をなのはは否定した。きょとん、とスイはなのはを見た。探し人は結構皮肉屋な所があるが
もしも本人が居たとしたら、同じような表情をするだろう。それを見てスイは微笑した。

「うん。そうだね」

「ごめんなさい……大声を出して」

「良いよ。別に、なのは……だっけ。風切羽って知ってる?」

「風切羽?」

辺りを軽く見ながらスイはなのはに語った。

「鳥が空を飛ぶために必要な羽根で、これが傷つけられると上手に飛べないんだ」

鳥の羽根には種類があるのだが、風切羽はその名の通りの羽根だ。これがないと鳥は上手に飛べなくなる。
籠で鳥などを飼う場合は意図的に羽根を切ることがある。

「必要な羽根なんだね。羽ばたくためには……」

「どんな鳥にも居るんだ」

スズメだろうが、ワシだろうが、飛ぶためには必要だ。なのはは拳を握りしめた。

「私にも、あるんだ……」

握りしめた拳からスイの瞳に見えたのは拳に翼が生えている姿、だった。

「あるよ。君にもね」

見えたことは言わないでおいた。多分、これのせいだろうと、想いながら、平静を装っていた。
そして気がついたように上着のポケットをあさると出てきたのは白い羽のキーホルダーだ。

「これは?」

「話してくれたお礼だよ」

白い羽が対になって着いているキーホルダーをなのはの手に落とした。なのはは最初は戸惑っていたが、握りしめた。

「ありがとう。スイさん」

「どういたしまして」

「私、稽古があるから、行くね」

去ろうとしているなのはに向かって、スイは言葉をかけた。

「夢は叶うよ。きっとね」

なのはが振り返ると、嬉しそうに頷いて去っていった。スイはしばらく見ていたが、やがて口を開いた。

「彼女が目的みたいだけど」

口を開いた。男達が囲んでいた。先ほどから気配はしていたのだが、一応対処はしておいた。
せっかく楽しい気分だったのにと肩をすくめた。それを見た男達が殺気を送るのだが、動じていなかった。
能力でも使おうとしたときに悲鳴が上がった。見ると、男達が次々と倒れていた。一瞬見えたのは渇いた世界だ。

「何やってるの?探したわよ?」

「僕が倒しても良かったんだけど」

「……アンタね。馬鹿は言わないで」

勝てないと言うわけではなく、面倒なことになるからやるなといった意味らしい。スイの探し人が現れた。
外側に黒髪のセミロングがはねている動きやすいシャツとジーンズを着たウェストポーチを着けている少女だ。

「女の子にあったんだ。鳥みたいだった」

「ふーん、鳥、ね」

「夢と希望を信じてる女の子だったよ」

「……夢なんて叶えられるのは十人中二人いればいい方なのに」

心にもないことを言うが、それも事実だ。夢を叶えられる人というのは少なかった。何事もなかったように歩き出す。

「でも、彼女なら出来る気がする」

空を見るとアマツバメが飛んでいた。

「夢は追いかけていれば何時か必ず叶う…とも言うわね」

腕時計を確認しながら言う彼女を見て、スイは頷いた。

「彼女なら、きっと高く羽ばたけるよ」


【Fin】



=後書き=

FOWのキャラというと策士であるグノーシスが居るんだが、アイツだと腹黒いので、考えた末に彼等になった。
厳密に言うと二人はFOWのキャラではない。解る方には解るはずなんだが、第三者から見た彼女と言うことで
スイに関して言うと、名前はもらったもので能力的には彼女がパートナーにするぐらいなのでアレ関係と
言うことになるが……解らなかったら、聞いてくださいね(……其れで解れば)
春休みに描くと言っていた割には現在……2:38 2003/04/14……体内時計を直さなくては……。
それでは逢えたら次回に逢いましょう……ちなみに対談形式じゃないのは策士に愚痴を言われるからで。

ARMSを読みながら


 

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