FOW閑話シリーズ
唯の言葉の羅列
〜玉藻御前と魏信神仙〜

作者 エルさん

「永遠と一瞬」


 冷やかな金色の髪が、天空から降り注ぐ銀の光を反射し、妖しく輝く。
 自嘲。
 破滅の唄。
 常世の風が髪を靡かせ、黄泉比良坂の瘴気が身を弄る。
 刻の流れ。
 欲しても、決して手に入らぬ。
 忌々しき永遠。
 終わりなき道。
 始まりなき道。
 閉じた輪。
 不死など永遠の死でしかない。
 輝きが欲しい。
 壊して欲しい。
 恋など知らねば良かったのだ。
 愛など知る必要はなかったのだ。
 闇がすべてであったのに。
 混沌が凝り固まっただけなのに。
 輝きを知ってしまった時から、魂は甦ってしまった。
 儚き閃光は廃れた心に火を灯し、我が身を焼くのに充分だった。
 常世の風が運ぶ影に、傾国と謳われし、完成された美貌を僅かに崩して、
 女は嗤った。

 月の光が降り注ぐ闇の中、鐘の音が鳴り響き、波紋が揺らめいた。
 我、探求せしもの。
 視える。
 真理が。
 視える。
 龍脈の力が。
 されど、まだ何も成し得ておらぬ。
 我、無限の知識を欲したり。
 流れる身を堰き止め、刻の狭間に侵入し、森羅万象を司る法を手に入れん。
 ヒトの心を持ち、ヒトを超えたモノ。
 ヒトでありながら、ヒトならざるモノ。
 不死の生命を得てしまった貪欲。
 終わりを自ら断ち切った存在。
 すべての理を欲する者。
 太極の叡智を極めん。
 その為ならば。
 穢れを以って、地の流れを乱すことも辞さぬ。
 知識の水は、砂の心を満たしてくれる。
 その甘美なる唄こそが無限への果てしない欲望を掻き立てる。
 常世の風が運ぶ影に、執念にも似た飽くなき探求心を秘め、
 永遠を渇望し手にした男は唇を歪めた。

 漆黒の瘴気が渦巻く中で、二つの"とこしえ"は向き合った。
 ともに永久を歩む存在なれど、想いは対極。

 瞬間に美しさを見出した女。
 無限にすべてを求めた男。

 道は交われど、影は交わることなく、消えた。
 月光だけが、それを知っていた。


 

図書館に戻る