Masked Rider
〜神聖甲虫〜
STORY

PROLOG「巫女を護る者」
かつて男は天才的な技術を持つ世界的な医者だった。

しかし、その才能に眼をつけらた、ある「組織」によって彼は拉致された。
一般には知られていないだけで、
世界中に数多と存在する「世界制服」を狙う組織。
「それ」もまた、そんな「ありふれた組織」の一つだった。

男は九死に一生を得て奇跡的に脱出する事に成功した。
しかし男の妻と娘は「組織」によって殺害されていたのだった。

それから十数年…男はたった一人で「組織」に復讐を誓い、
…そして長い長い戦いの末に組織を壊滅に追い込んだのだった。

「全てが終わった」…そう思ったとき、
男には、ただ果てしない虚無感だけが突き抜けた。
男は「俺は、もう生きる意味もないのだ」と思った。

それから更に数年後…そんな男の物語。

男は酒に溺れ、街を転々としながら、
その日暮らしの荒れた生活を送っていた。
夕暮れ時、路地裏で酔いつぶれていた彼の視界に異様な光景が目に入った。

上等な服を着ている小さな少女。
少女の髪は美しい金色の巻き毛で、瞳の色は透き通るようなブルーであった。
しかし妙なのは、その表情が何かに怯えるようにこわばっていた事、
体の至るところに擦り傷などがある事を察するに、
男は何やら只ならぬ雰囲気を感じた。
そしてそれとは別に、男はもう一つの違和感を感じていた。

「たすけて!」

少女は目の前にいた男に向かって叫び、しがみついてきた。
一瞬あっけにとられた男は、気を取り直してあくまで冷静に口を開いた。

「あ…?どうした嬢ちゃん?」
「私…殺され…殺される!」

子供特有の大袈裟な表現、もしくは冗談…だと思った。
ただ、少女の体はガタガタと小刻みに震え、
ともあれ尋常な事態ではなさそうだとは感じられた。
それでも男は、少女を落ち着かせようと、冷静に話を続けた。

「ちょっとよく話が見えてこねえな…なんでオマエが『殺される』んだ?」

少女は男の口調に少しずつ落ち着きを取り戻したかのような感じで、
それでも、たどたどしく言葉を返した。

「私…私が…私は…ミコだからって…
 門を…閉じる為に…私が『死ななきゃならない』んだって…
 話…話をしているのを聞い…聞いちゃったの…」

良く判らない話である。
ただ「ミコ」「門」など幾つかのキーワードから、
男の頭にあるイメージがおぼろげに湧いていた。

「ミコってのは?」
「フウイン…ノ…『フウインノミコ』って…」

男は戦慄が走るのを感じた「封印の巫女」という言葉には聞き覚えがある。
「組織」と争っていた頃、一般人の知りうる「表の歴史」には記されない、
いわば「裏の歴史」について知る機会があった。
「ヨーロッパ暗黒史の影の立役者シュトロハイム」
「1800年頃に世界中に凶事をもたらした暗黒神アンブロジァ」
そして…「あの世とこの世を隔てる空間の扉『地獄門』」
その地獄門が不安定になった時、
封印の生贄として捧げられる特別な少女の呼称が確か…

(「封印の巫女」だったと思う…)

男は思う。
それではこの少女は「アレ」から逃げてきたということか?…と。

「誰かに追われているのか?」

少女が答えたのは男が予想していたとおりのものだった。

「ゾンビハンター機関」

ビンゴだった…。
国連加盟国中の僅かな大国…それも極一部の上層部しか知らない、
世界的規模をもつ「常世対策機関」の名前である。
少女の口からこの言葉が出てくるということは、
彼女の言っていたことは、ほぼ真実だと思って間違いない。

一般人など、たとえ意味がわからなかったとしても、
こんな話を聞いただけでも秘密裏に消されるかもしれない。
ましてや、これ以上この少女に関われば…。

「そこまでですよ…」

不意に誰かの声が割って入ってきた。
少女を連れ戻しにきたゾンビハンター組織の男だろう。
国連を通じて手配したのだろうか、周囲を警官と思しき連中が包囲している。

「冗談きついぜ…」

男は周囲に目をやるとタメ息まじりにそう呟いた。
そう、国家規模で人を動かせる組織である、
人一人を指名手配犯にする事も訳のない話である。
抵抗する理由など何一つない。
おとなしく少女を渡して何も聞かなかった事にすればいい。

「嬢ちゃん…名前は?」

不意に男は少女に名前を尋ねた。

「?…クローディア…」
「そうか…クローディア…俺はジャンだ…!」

全く状況を意に介していないかのようなジャンの行動に、
ゾンビハンター機関の男も怪訝な顔をする。

「周りが見えていないんですか?
 おとなしく少女をこちらへお渡しください
 そうすれば貴方に危害を加える事は致しません故…」

ジャンは、ゾンビハンター機関の男を一瞥すると、
それに構わず、再びクローディアに一言だけ尋ねた。

「生きたいか?」

聞いた後もジャンは、まっすぐとクローディアの瞳を見据えていた。
クローディアは、そんなジャンに向かって静かに頷いた。

ジャンは口元に笑みを浮かべて立ち上がると、
周囲の警官隊に向かって歩き出した。

「ビビんなよ…クローディア!」

ジャンの肩口がメキ!っと音をたてた。
いや…メキ!メキメキ!とジャンの全身が音をたてながら…
外骨格を持つ甲虫のような姿へと変形していく。

その場に居た誰もが…そしてクローディアも驚愕する。
これこそジャンが「組織」より与えられ、そして「組織」を壊滅させた力。
「神聖甲虫(スカラベ)」の力であったのだ。
変身を遂げたジャンはクローディアに振り返る。

「怖ェか…?」

その問いに対し、首を横に振るクローディア。
その言葉を聞いたジャンは再び警官隊に向き直り突っ込んでいく。

「俺がオマエを護ってやる…
 だから、もし勝手に死んだりしたらブッ殺すからな!」

生きる意味を見失っていたジャンは、
「封印の巫女を護る」という新たな生き甲斐を見つけた。
傍からみれば陳腐な正義感に見えるかもしれない。

だがジャンにとっては、
「クローディアの容姿が彼の死んだ娘に良く似ていたこと」…
唯一それだけで命を賭けるには十分だった。

小ボス:Mr.Π
●戦闘前

ジャン「てめえか…ZH機関のボスってのは…!」
Mr.Π「私の部屋まで侵入してこれるとは…君は何者だ?」
ジャン「俺はジャン…
    これ以上クローディアに手を出すのはやめてもらいたい」
Mr.Π「クローディア…誰だったかな?
    !…ああ…なるほど…
    『封印の巫女』を奪って逃走しているというのは君か…」
ジャン「クローディアを…『封印の巫女』なんて呼ぶんじゃねえ!」
Mr.Π「クローディアなど知らないねえ…
    全人類にとってクローディアなどという
    一人格にどれほどの価値があるというのだね?」
ジャン「…!」   
Mr.Π「だが封印の巫女としてなら…
    彼女は全人類にとって計り知れないほど有益な存在だ…」
ジャン「話し合いでは…わかりあえないようだな…!」
Mr.Π「残念だよ…」

戦闘開始。

●戦闘後

ジャン「終わりだ…何か言い残す事はあるか?」
Mr.Π「フ…君はその少女の為に一体何人の命を犠牲にするつもりだ?
    私の命もそう…彼女に生きていて欲しいと願う事で、
    何億もの命を犠牲にしてゆくだろう…」
ジャン「…」
Mr.Π「…いや…『何十億』か…」
ジャン「そうかも知れねえ…だがよ…その何十億だかが揃いも揃って…
    一人の少女に縋り尽くしかねえのかよ…?」

中ボス:美鵺
●戦闘前

空間に地獄門が開き、その中に吸い込まれるように画面がフェードアウト。
その中で待っていた美鵺の全身図が足元から顔にかけてスライド。
最後に美鵺の目がアップになり閉じていた眼が開く。

ジャン「…ここは!?」
美鵺「…ここは黄泉比良坂…生と死の狭間の世界…
   私のような狭間人の世界だよ…」

美鵺の背中に炎の翼が現れる。

ジャン「おまえは…?」
美鵺「私は朱雀…イノチヲカルモノの穢れを受けて…
   死のない体になったもの…」

美鵺の背後にクシャナが現れる。

ジャン「!?」
クシャナ「しかし…その穢れを浄化する可能性が一つ…ある」
ジャン「てめえら…まさか?」
美鵺「そう…『封印の巫女』の力を使えば…
   この呪いを解く事が出来るかもしれない」

クローディアがジャンの背後に隠れ、ジャンが身構える。

ジャン「チッ…また『それ』かよ…」

戦闘開始。

●戦闘後

クローディア「…あ!」

突然、黄泉比良坂の奥から光の手が伸びてきてクローディアを捕まえる。

ジャン「何!?」

ジャンが手を伸ばすも、クローディアはそのまま常世に吸い込まれてしまう。
すかさず走り出そうとするジャン。

美鵺「待って!」
ジャン「何だ!?」
美鵺「もう無理だよ…
   あの奥に行くってことは、そのまま『死ぬこと』を意味しているの…」
クシャナ「あの奥に居るのは…『死』そのもの…
     彼女は二度と帰ってこれはしない…追うことは無意味だ…」

ジャン「…は!」
美鵺「?」
ジャン「つまらねえことで引き止めてんじゃねえよ…!」

ジャンはためらうことなく常世に飛び込んでいき画面が暗転。

美鵺「迷うことなく走り出せるんだね…あの子の為に…」
クシャナ「ですが…たとえ彼でも…」
美鵺「彼はそれを知っていたよ…
   それがわかっていても、そうすることしか思いつかなかったんだよ…」

美鵺「ねえ…クシャナ…もし貴方なら…私を…」

画面が明けると、ダイレクトにラスボス戦開始。

ラスボス:NIRVANA
●戦闘後

ジャン「何処だ!クローディアは何処にいる!?」
ニルヴァーナ「少女一人を求めて…『死』を超越するか…
       愚かな…
       しかし…もう遅い…彼女は既に…坩堝の中だ…」

ジャン「チッ!退きやがれ!」

ジャンがニルヴァーナを真っ二つに切り裂く。

ニルヴァーナが消滅すると同時に、
常世の底から「七つの光に取り巻かれた巨大な光」が飛び出す。

ニルヴァーナ「…が…受肉…する」

画面暗転。

死者の魂の奔流の中で意識のないクローディアが漂っている。
そこへ必死に手を伸ばすジャン。

ジャン「クッ!届かない!あと…あと少しなのに!」

ジャン自身の体も常世の浸蝕を受けて崩れ始める。

ジャン「護れないのか!俺はまた…!色んなものや大勢の人を犠牲にして…
    クローディア一人守ることも出来ないのかよ!?」

ジャンの体が伸ばしている右手と胸部から上を残して崩れ落ちる。

ジャン「どうすればおまえを助けられる!?
    『諦めない心』?『勇気』?『執念』?『俺の命』?」

遂には伸ばしていた指先からも肉体が滅び始める。

ジャン「チクショオ…!『神』?『悪魔』?
    どっちでもいい!誰でもいい!力が欲しい!
    クローディアを助けられる力が!」

ボロボロになった手首だけを残してジャンの体が消滅する。

地獄門から「七つの光に取り巻かれた巨大な光」が飛び出すが、
その「取り巻く光」の一つが地獄門の中に再び飛び込んでいく。

ジャン「俺に力を…!

次の瞬間、ボロボロの手首に巨大な光が入り込み、
そこから一瞬にしてジャンの全身が再生する。
以前よりも遥かに禍々しく巨大な姿となって。

地獄門から巨大な閃光が立ち上る。

画面暗転。

ENDING
画面が明けると、何処かの丘の上で目を覚ますクローディアが映る。

クローディア「…ここは…現世?私は…助かったの?」

呆けた様子で辺りを見回していたが、すぐにハッと気がつく。

クローディア「ジャン…どこ!?どこにいるの!?」

しかしジャンの姿はどこにもない。

画面が切り替わり何処かの闇の中。

?「よもやこの海龍公…ナハイベルが…
  人間の思念などに吸い込まれようとは…」

禍々しく変化したジャンの肉体が映し出される。

ナハイベル「だが面白い…良いだろう…
      褒美におまえの肉体を我が器として選んでやる…光栄に思え…」

再びクローディアの場面。

クローディア「ジャン…約束したじゃない…『私を護る』って…」

クローディアの眼から溢れ出す涙。

クローディア「私も約束守るから…
       一人でも…絶対に死んだりしない…
       ううん…『生きる』って約束したから…」

涙を拭うクローディア。

クローディア「だからきっと…帰ってくるよね…ジャン…!」

画面暗転。スタッフロールへ。

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