スーパーロボット大戦
スノーマウンテン

第11話


「何やっているんですか!」

 現れたオーバーマンのパイロットの第一声はそれだった。
 オーバーマン……こと、キングゲイナー。搭乗者、ゲイナー・サンガである。
 キングゲイナーはかなりの速度でスノーマンに向かうと、空中を滑走しながらチェーンソーガンで狙撃する。
 だが、弾丸の全てをスノーマンの装甲は弾いた。

「く……なんて堅いだ!」

 スノーマンに踏みつけられた格好のままグフ・カスタム……ノリス……はキングゲイナーに視線を向けた。
 その表情は渋面であった。

「……何故……」

 言葉をだそうとしたが、喉が乾きで張り付き、かすれる。
 それでもノリスは、声を張り上げた。

「何故来た、ゲイナー! 『木の置物』の相手はどうした!」
「後から来たツインビーが受け持ってくれましたよ!」




「ピコハンマー!」

 ペタン、と『木の置物』こと、からくり木獣が真っ平らになった。
 つぶれたカラクリ木獣を乗り越え、すぐさに他のからくり木獣が迫り来る。

「ピコハンマー! ピコハンマー! ピコハンマー!」

 もぐら叩きをするかのごとく、ツインビーは潰していく。
 だが、そんな光景を意にも還さず、からくり木獣は群がってきた。
 辺り一帯のからくり木獣は、どうやら全てツインビーに集まっているようであった。
 スノーマンの戦いに邪魔を入れない、という囮としての目的は果たしているが……。

「あああ、もう数が多いぜ! ったくよう!」

 ツインビーのパイロット……ライトは、思わず呟く。
 ツインビー一体で相手にするには……いくら相手が弱いとはいえ……数が多すぎるように思えた。

「まあ、こういうことも重要な役割だビー!
 自分でやるっていったんだから、きちんとやるビー!」

 ツインビーの言葉に、ライトは思わず口のチャックを閉めた。

(い……言えない。
 ノリと勢いで『ここは俺に任せろ!』なんて言ったなんて……言えないぞ、こりゃ)

「とはいえ、予想以上の数だビー!」

 言動を表すように、ツインビーの動作が微妙に荒くなっていた。
 再び、ピコハンマーで目の前のカラクリ木獣を潰す。
 ……と、そこで一旦、ライト、ツインビー共々わずかに一息入れてしまったのだ。
 その隙を狙うカラクリ木獣たち。
 ツインビーを囲っていた木獣が、一斉に炎を噴出したのだ。

「っぶねぇ!」

 声を張り上げたライトは、とっさにツインビーで大地を蹴った。
 どうにかツインビーの身体は宙へと浮かび上がる。
 その直ぐ下を紅蓮の炎が走りぬけ、カラクリ木獣たちはお互いに焼き消した。
 木獣たちは、同士討ちのことなどまったく気にした様子はない。
 そのまま、空中のツインビーに向かって、次々に火弾を吐き出した。

「ツインビー! こうなったら、『アレ』使うぞ!」
「OK! ライト!」

 火弾を避けながら、ツインビーは脇から一個の黄色い『ベル』を取り出した。




 キングゲイナーは、銃ではまったくダメージが与えられないと分かると、銃撃を即座にやめる。
 撫で下ろすように、チェーンソーガンで斬りかかる。

「それよりも、貴方!」

 行動を起しつつも、ゲイナーはノリスに向かって怒鳴り声を上げた。

「人に任せておいて、何ですか! そのザマは!」

 ノリスは沈黙した。

 その間にも、チェーンソーによってスノーマンの表面は、擦り傷のようなものは出来る。

 だが、それだけであった。

 スノーマンは、まったく微動だにしない。

 その様子を見つめながら、ノリスは呟く。

「すまぬ。ゲイナー」
「……ッ!」

 ノリスの言葉にゲイナーは一瞬、言葉を失った。
 少なくともゲイナーが知っている大人たちの多くは……失敗したときに言い訳するか、開き直るか、誰かのせいにする……そんな人たちばかりであった。
 特に『あの人』ならば。

「……言い訳ぐらい……」

 絶叫とも悲鳴とも分からぬ声で叫ぶ。

「言い訳ぐらいしてくださいよ!」

 キングゲイナーはそのまま、二倍以上の速度でスノーマンを斬り続けた。
 残像が残るぐらいのスピードであったが……それでもスノーマンは動かなかった。

 ちなみに。

 スノーマンの方はというと……敵が一体から二体に増えたためだろう……どうしていいのかわからず、思考停止。
 そのまま行動を止めていた。
 なかなかアドリブの効かないロボットのようである。




「役立たずが!」

 南蛮王孟獲はまったく動かないスノーマンの姿に、舌打ちした。
 本当ならば、今すぐにでも命令を下したいところだ。
 だが、彼の行動を阻むものがいた。
 そして、それは予想以上に厄介な相手だった。

「スノーマン! そいつらを……」

 口を開きかけて、孟獲の唇を僅かに銃弾がかする。

「あひぃ!?」

 やや情けない声を張り上げつつ、孟獲は後方へ後退った。

 同時に。

 銃に弾丸を吐き出させながら、『女体』が追いすがった。
 すらりと、しかし豊満な身体からは想像もつかぬ運動力と、眼鏡の中から覗く厳しい視線が、孟獲を射抜いていた。
 『厄介な相手』……フィオリーナ・ジェルミ、こと、フィオである。

「ぬお……」

 孟獲は、さらに横へと避ける。

 フィオはそのままさらに詰め寄った。

 腰のサバイバルナイフを抜き去ると、孟獲の脇へと打ち払った。

 その動きはほぼ同時だった。

 孟獲が踏み込み、剣を振り下ろすのと。

 お互いの攻めが交差する。

 孟獲の剣がフィオを斬ることなく地面へと振り下ろされる。

 フィオのサバイバルナイフは、根元から切断され、虚しく空をえぐる。

「あれ?」

 フィオは呟く。
 そんなフィオに孟獲は不敵な笑みを浮かべる。

「隙ありだ、女!」

 孟獲は剣を横へ構える。

 と。

 孟獲は顔面に激痛を感じた。

 彼の顔は水平に天へと向き、膝は折れ、眼前には『女の靴裏』があった。

 つまり孟獲は……。

「俺を踏み台にした!?」

 そのままフィオは、身をはねさせる。

 宙で器用に身体をひるがえすと、銃を放った。

 孟獲に向かって!

 そして。

 あたりに、金属を打つ甲高い音が鳴り響いた。

「え……」

 フィオは驚愕で目を見開いた。

 いつの間にか孟獲は手には、皮の盾のようなものを手にしていた。

 銃弾が『皮の盾のようなもの』で弾かれたのである。

 着地と同時、フィオは孟獲から一旦距離をとった。

「な、なんでですかぁ?」
「ふ……ふふふふ」

 孟獲はここに来て、再び勝利を確信した笑みを浮かべた。
 もしかしたらば、『7回目』ぐらいの勝利の笑みだったかもしれない。

 フィオは再度、銃を放つものの……弾丸は完璧に弾かれていた。

「名誉に思え、女。
 藤甲盾を使わせたのは、策士諸葛孔明殿以外ではお前が初めてだ」

 南蛮王孟獲は策士諸葛孔明に7度勝負を挑み、7度捕らえられ、7度許された。
 そのことから彼は心服し孔明の配下になった、という経緯がある。
 『孔明七擒孟獲』という言葉はここから来ている。
 その7度目の戦いに使ったのが、藤甲盾と藤甲鎧である。
 これらは水をはじき、矢も刀も通らないという、孟獲の切り札であった。

 そして、今まさにフィオの銃器を完全に防いでいたのである。

 焦るフィオの顔を、じっくり楽しみながら孟獲は声を張り上げた。

「ははははは。さあ、スノーマンよ、お前の目の前の敵を倒せ!」


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