スーパーロボット大戦
スノーマウンテン

第10話


「……く!」

 ノリスはうめいた。
 即座に思考が浮かんでは、刹那にも満たない時間の内に消失する。
 相手は自由に動けるコピクットの入り口にいる。
 対してこちらは、シートベルトで身体を固定して座っている。
 シートベルトを外す間は間違えなく無い。

 腰に装備した携帯銃を即座に抜くか?

 否。

 相手はモビルスーツでさえ捕獲できないほどのスピードを誇る人間だ。
 そんな時間は与えてくれまい。

 モビルスーツを動かして振り払うか?

 否。

 そもそもモビルスーツはスノーマンに踏みつけられているのだ。
 動かしようが無い。

 他にも様々な思考を巡らせるが、結局、どうしようもなく無意味だと実感した。
 考えるまでもなく絶望的な状況なのだ。

 だが……、このまま何もせずに終わられずにはいられない!

 ノリスは携帯銃を抜き放った。

 標準は迷うことなく孟獲に向かれていた。

 だが、引き金はむなしく引かれただけだった。

「……ッ!」

 銃はノリスの手元から静かに膝の上へと落ちていった。

「鈍いなぁ」

 孟獲の手にした剣が銃を切断したのだ。

 ノリスは驚愕の顔も恐怖の顔も見せない。
 ただ……歯を噛み締め、孟獲を睨みつけいてただけだった。
 孟獲が笑っている。
 勝者の笑みではない。
 弱者を嘲笑う笑みだ。

「ふふふふ。残念ながら、ゲームオーバーだ」

 孟獲がゆっくりと見せ付けるように剣を横に振りかぶった。

 無念!
 ノリスが心で絶叫したときだった。

「おおおおおお!!」

 少女が叫んだ!

 コクピットの後部にいた光だ。

 光が、躍り出た!

「な!?」
「うあああああああ!!」

 孟獲が予想外の出来事に反応が鈍る。
 そこに光が体当たりをした!

 弾かれる孟獲の身体。

 そのまま光と孟獲はコピクットの外に投げ出された。

 孟獲は受身が取る間もなくグフの表体面にぶつかり、地面に放り出される。
 雪の中に埋もれつつ、思わず呻く孟獲。
 一方、光は咄嗟にも関わらず……むしろ、咄嗟だったからこそ身体が反応した。
 新体操部に所属する光は、飛び跳ねるようにグフの体面をジャンプし、綺麗に着地した。
 ついつい新体操の終わりのように腕を広げている光。

「う……上手くいった……」

 思わず呟く光。
 安堵の息を深く吐き出した。

「まったく……先にワシと遊んでほしいのか。お嬢ちゃん」

 声は光の後ろから、のっそりと聞こえた。
 光の身体が硬直した。
 ゆっくりと、上半身を捻りながら、後方を確認する。
 彼女の視線を受けた、体に付いていた雪を手で払っている大男、孟獲は不敵な笑みを浮かべた。
 孟獲は、剣を一発素振りした。
 何事か分からぬまま、想像を絶する衝撃で光は後方へと吹き飛ばされた。

 剣から衝撃波が発生したのだ。

「うく……」

 幸いに吹き飛ばされただけで、怪我を負わなかった光は、立ち上がろうとした。
 だが、足が、手が震え思うように体が動かない。
 光は歯を食いしばりながら顔を上げる。
 その瞳、ゆっくり歩み寄ってくる孟獲の姿が映っていた。

「光、逃げろ!」

 グフのコクピットから、ノリスの声が響く。
 声が光の震えを解いた。

 光は駆け出した。

 どこへ逃げれば良いのか分からぬまま、ただ一心不乱に走り出す。
 雪で靴が捕らえて走りづらいなど感じられるほどに。

 その後ろを孟獲がゆっくり追いかける。

「はははは。どうした。これでは追いついてしまうではないか」

 孟獲が剣を振るうと、再び衝撃波が発生する。
 衝撃波はまっすぐ大地を走ると、光の背中に直撃した。
 光はそのまま、吹き飛ぶと雪に抱かれ、地面に数転した。

 威力を弱めてあるのだろう。
 打撲で足が笑うものの、怪我のようなものは負わない。

 ――遊ばれている。

 そう直感する。

 相手は光で遊んでいるのだ。

 悔しさで唇を噛む。だからと言って何が出来るか。
 ただの中学生である獅堂光にとって、秘密結社BF団を相手にする実力などありはしないのだ。

 逃げるしかない。

 逃げるしかないのだ。

 言うことを聞かない足に鞭を打ち、かろうじて立ち上がる。
 背後から迫る孟獲の気配に気圧されながら、歩むを進め、光は真っ直ぐ前を見つめた。
 おぼつかない足取りで、しかし視線はそのまま、とある一点に吸い込まれた。

 その一点は人型だった。

「光さーん! 横に避けてくださいですぅ!」

 その人型の名前を『SVR−001』。

 通称、スラグガンナーと言った。

 光が言葉を聞くと同時に、横へと飛びのく。

 瞬間。

 スラグガンナーのバルカンが火を噴いた!

 溢れる薬莢は熱を含み、雪の大地を虫食いのように溶かし沈んでいく。

 大量の火薬を持って放たれる弾幕が孟獲を襲う。

 だが。

「えぇい!」

 孟獲も横に飛んで回避する。

 幸いにして光と孟獲は反対方向に飛んでいた。
 スラグガンナーは、光を庇うように歩みながら、バルカンを放ち続ける。

「ロックオンが追いつきません」

 銃弾がまったく孟獲にかすりもしないのだ。
 孟獲の運動性能が、スラグガンナーを大きく上回っていたのだ。

「ふっふふふふ! 貴様から、やられたいようだな!」

 孟獲は回避しながら、スラグガンナーへと突き進んだ。

 その時。

 孟獲は驚くべきものを目にした。

 女が飛び出してきたのだ。

 スラグガンナーの中から。

 女はこの寒い中驚くほど軽装で、スラリとした身体には豊かな胸、ポニーテールを結った頭には帽子を被ったメガネの女だった。

 フィオリーナ・ジェルミ。フィオである。

 フィオは地面にしゃがむと、手にしたハンドガンで孟獲を撃つ。

 孟獲はいつもの様にかわそうとする。

 だが。

「くぅ!?」

 孟獲の頬に灼熱の痛みが走った。

 思わず手を当てる。

 線状に焼けた頬と、ドロリと流れる自分の血。

 フィオの弾がかすめたのだ。

 スラグガンナーでは一発も当たらなかったにも関わらず、だ!

「げぇぇ!」

 孟獲はあまりのことに呻き声を上げてしまった。

 そんな孟獲にお構いなしに弾を打ち続けるフィオ。
 数発の弾丸が、膝を、腕をかすめる。
 そのまま光に語りかけた。

「光さん。スラグガンナーの中に逃げてくださいぃ」
「スラグガンナー……この中に?」
「そうですぅ」

 スラグガンナーを盾にするように座っていた。
 光はスラグガンナーを見上げる。

「スラグガンナーの装甲は丈夫でしてぇ。
 どんな攻撃も4発までならば耐えられるんですぅ」
「4発……」
「そうなんですぅ。
 ミサイルでも、一般人のパンチでも、4発まで耐えられるんですよぉ」
「……す、すごいのか、すごくないのか良く分からない……」

 と。

「おのれっ! 斬り捨ててくれる!」

 いきり立った孟獲が、剣を振り回し向かってきた。

 剣より発生する衝撃波が、フィオを襲う。

 だが、フィオはそれをジャンプして回避する。

 着地を狙い、孟獲が衝撃波を再び放つ。

 だが、着地と同時に再びジャンプし、ものの見事に回避するフィオ。

 何気ない動作だが、卓越した戦闘能力が無いと出来ない行動だ。

「ぬ?」
「や?」

 辺りに深い影が通り抜ける。

 フィオと孟獲は思わず空を見上げた。

 白い髪をたなびかせ、オーバーマンがスノーマンに向かって飛んでいった。


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