父の肖像


「ただいま、トゥエルヴムーンシティよ。」
プロト・ガルベットの短い休暇と里帰りは終わった。
「そしてひまわりの大群よ。」
彼の周りを、旅行を羨ましがったり、出迎えに来ていたり、
感想を聞きたがったりしているひまわり人間が、
わらわらととりまいていた。
プロトは、飛行機では帰ってこなかった。
九月に、レイファーガの手の平に乗せられて、ここまで来た。
生身の人間だったら酸欠か恐怖で死んでいたであろう。
その、レイの中から、連中のいっていた「あんの女」
長月真紀嬢が姿を現した。
「どーも、ありがとうございます。助かりました。」
「いえいえ。」
「オレもレイで来るとは思ってなかったんですがね。」
「・・・・つい、触発されまして。」
「さいで。」
防護スーツを取り出して、プロトは背広の上からそれを羽織いつつ、
九月嬢にたずねた。
「・・・・オレを見張ってたのは、あなたと、もう一人いたでしょう。」
無表情のまま、九月が答えた。
「ええ、ヘルメスさんが。」
「ああ。なるほど。」
通りでなんか見物されている気がしたのか、と、思った。
「不思議がっていましたよ。」
「は?」
今度は、九月が誰に言うでもなく、言った。
「嫌いだといっていたのに妙に楽しそうだったと。」
いつものヘルメットを被りながら、プロトはやる気の無い口調で返した。
「嫌い、と、好き、は意味が違い、同じ意味ですからね。」

英国軍事基地では後かたずけが進んでいる。
あんだけのドンパチがあったのに、例の歩行機械は
何故か郊外でぺっちゃんこになっていた。
防空システムにひっかかった巨影も、けっきょく見つからない。
なにがなにやら、というのが、国防長官と、女王の心境だった。
「少佐。」
「んー?」
ウィリアムが、ぶっ壊れた無線機に、{くず鉄所行き}と書かれた
張り紙をつけながら、言った。
「・・・・・お子さん、
 別に少佐を嫌っているようには見えなかったのですが・・」
「ああ、それか。」
バーナードは、冷静にこたえた。
「嫌い、と、好き、は意味が違い、同じ意味だからな。」
「どういうことですか。」と言うウィリアムの言葉を、
バーナードは鼻で笑った。
「いずれ分かるさ。」

通常勤務に戻ったプロトは、今日も今日とて雑務をこなす。
「ぎちょー、書類です。」
「・・・・はやくないぞ。三時までにと言っただろう。」
「はあ。」
いぶかしげな顔の議長を前にしても、プロトの顔にはやる気が無い。
「ガルベット、君がロイヤルホストに入ったのは何時だ?」
しまった!とプロトは思った。匂いで、ばれたらしい。が、
「吉野家です。」
そのまま二時間ほどの説教を喰らった。
プロトへの心配事は、どうやらバーナード父の取り越し苦労と、
なりそうである。
「っていうか、現になってるって。」
「ガルベット、話は終わっておらん。」

ふと、長月嬢は思った。
「・・・・そういえば何か忘れているような気がしますね。」

大英帝国の満天の星空の下、大地から生えるひまわり三つ。
「・・・かえりてえよお。」





父の肖像  END


 


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