「欺く月」
第1話
庵は語らない。
草薙の血を受け継ぐ者以外に、狂気をぶつける人間がいることを。
この物語は、後にある少女から受け継ぐ話である。
『導く炎』だと…!?
神楽は確か俺にそう言ったな。
暗闇の中、八神の男は呟いた。ならばここは一体なんだ?
くくく...、馬鹿げてるじゃないか。俺は時間を漂流したとでもいうのか?
・・・おもしろい。貴様らの好きな様にはさせんぞ!京も!神楽も!
確かに数分前までは東京にいたはずだった。しかし、彼の運命は大きく歯車を狂わせ始めた。神楽ちづるに出会ったからだ。
「あなたはこの大会に出場するの?」
「・・・どけ」
「話を聞きなさい。これはあなたの行く末を大きく左右する問題よ」
「ふん。…何故、貴様がここにいるかは聞かないでやる。消えろ。」
「キング・オブ・ファイターズだけでしか草薙京と戦えないの?」
「吠えろ。」
背後でため息が聞こえた。「しょうがないわね」…確か、そう聞こえた。と、思う。
その直後だ。目の前のモノが全て真っ白になったのは、
『あなたは導く炎。…神もたまには人選を間違えることもあるわ。私も本当はあなたになんて頼みたくなかったわ。オロチ滅んだ後、あなたに会うことなんてもう無いと思っていたのに・・・。あとは運命にのみ従って・・・』
眼が覚めると、三日月の浮かぶ港だった。
そこに見えるのは、くたびれた道場のような所だった。中に入り、しらみつぶしに調べていると、ここがどこなのか、理解するのに時間はかからなかった。
「…ここで何をしている」
不意に背後で声をかけられた。
・・・庵はそうたやすく背後をとられる男ではない。しかし、現実に自分の背後には誰かが立っていて、そして、
水面下の様に静かな殺気が漂っていた。
「己が死すが先か。私の問いに答えるが先か。貴様が選べ。」
驚くほどに静かにその”男”は続けた。
「貴様に答えることなど一片もない。邪魔だっ!」
庵は背後に立つ殺意に向かって、紫炎の殺意で歓迎した。
「・・・!?貴様...、朱雀か!」
「貴様に名乗る名などない。殺してやるからおとなしくしていろ」
「・・・・・・・器が知れるぞ・・・・・・・」
ようやく振り返った庵に映ったのは、夜空をも覆い尽くすかのような巨大な三日月と、そこに影を落とすようにたたずむ長髪の剣士だった。
「貴様は今日から月に怯えて生きるがいい!おおぉっ!!」
先に仕掛けたのは庵だった。しかし、次の瞬間、捉えられたのは庵の方だった。
「・・・命拾いしたな。あいにく、私は武器を持たぬ者とは手合わせはせんのだ」
喉元には刀の切っ先が突きつけられていた。
「こ、このままでは終わらん、ぞ!」
「くく・・・、月夜に嘲り・・・」
これほどの屈辱は血の宿命を知ったあの時以来だった・・・。
炎の風で前髪が吹き上がった。そこから覗く瞳は復讐と狂気に満ちていた。
誰もいなくなったその場に立ち尽くし、庵はしなくてはならないことをみつけた。
奴を殺す。
・・・その道場でみつけた号外に記された年。
1864年―。
第2話に続く
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