「欺く月」
第2話
嘉神は誰も居ない部屋にたたずんでいた。
眠れない。・・・それは、昨日今日に始まったことではない。
しかし、今夜は少しばかりいつもとは違った。
炎・・・。それも、邪の。
自分が昔、駆っていたような、復讐に満ちた炎。・・・その気配がしたからだ。
それに、もう1つ。違う気配がする。
・・・甘い。
なにか甘い匂いがする。そう思うが先か、気配はその瞬間、背後に現れた。
嘉神は、既に刀を抜いていた。四神の一人、『朱雀』を司る彼はその類に敏感だった。
「・・・物の怪か。なんのようだ?私の精気でも吸いに来たか?」
「ふふふ、いいわぁ。その瞳、・・・貴方の命、確かにおいしそう。でも、今日はそういうわけにもいかないの」
「・・・。貴様は、現代の者では無いな?」
「あはは!…時代に捕らわれるなんて、やっぱり人間ね!…ふふふ。貴方には頼みごとがあってきたの」
「物の怪の頼みを聞く道理はないな」
「ふふふ・・・。ま、あたしが頼まなくても、勝手に話は都合の言い様に回るのだけれど。」
その物の怪は、喉元に刃が突きつけられているにも関わらず、動揺するそぶりも見せず、話を続けた。
考えられないような衣服に見を纏い、蝙蝠を思わせる翼を背負うこの女。・・・、時代だけではない、訪れる国さえも違うであろう。
「この娘を預かって頂戴。妙な力(と、いっても私達からすればどってことないのだけれど。)を使うけど、正真証明の人間よ。ふふふ、頼むわね」
「どこへ行くつもりだ。話はなに一つ終着を見ておらん」
「話は、知らなくてもいいわ。その内わかるもの。もう会うことも無いでしょうけど、貴方のこと、嫌いじゃないわ。
ま・た、あ・そ・ん・で・あ・げ・る☆あはははははっ!」
「ま、待て!」
そう言って物の怪は消えて行ってしまった。
・・・分かっていたあの時、斬っていてもあの物の怪を殺す事など出来なかっただろう。
「う・・・んっ」
不意に少女らしき声が聞こえた。・・・過去というには近過ぎるかも知れないが、あの李という中国人の胴着に似た服を着ている、いや、しかし色は全く彼とは違った。
燃えるような朱色、いや、紅と言ったほうが正解か。
それに耳飾り、私もしているが、比べ物にならないくらいの大きさだ。
それに暗闇で分かり辛いが、鮮やかな紫色の髪が清純さを引き立たせている。
・・・この少女が何だというのだ。
時とは不思議なものだな・・・。
少し昔なら真っ先に葬っていたか、あるいはその辺に捨てていただろう。
私は、その娘に毛布を掛けてやると、眠れないと知りつつ床に入った。
日が上がっても、この日がこんなに長い1日になるなどとは、考えもしなかった。
不快な炎の気配はその晩、消える事はなかった・・・・。
第3話に続く
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