トリプル・ディザスター

トリプル・ディザスター


とある所にとある無人島があって、とある人が二人来ている。
片方は、プロト・ガルベットという悪名高き、あの暦の構成員である。
もっとも、彼はぺーぺーだが。
彼は、出張と銘をうたれて、ここにいる筈の実験に使う生き物を、
探しに来ている。それでもう、一週間たつ。
もともとやる気がない彼にとって、これは地獄であった。
せめてその生き物がそこらで簡単に獲れる奴ならいいのだが、
あいにくそいつはこの島特有の生物なのだ。
「せめて、ひまわり共がいりゃあなあ。ここまで暇にゃならなかった。」
ま、サイボーグだから死ぬことはないが、つまらん。
今さらながらに後悔する。

もう片方の人間は、葎純一という東洋人である。
新聞記者だが、ある格闘大会の事に足を突っ込んで抜けられなくなり、
そのまま泥沼式にはまっていった人間である。
第一回大会の終了後、彼は世界を渡り歩き、更なる情報を得た、が、
数週間前、波にさらわれ、流れ着いたのがこの島であった。
もともと生命力の強い彼は、こんなことではくたばらない。
だが、一つだけ気がかりな事があった。
あいつ、天井裏からナップザックの中に住処を変えたあいつ。
波にさらわれたとき、ナップザックは浜に残したまんまだ。
今頃どうしているだろう。
「腹、へってるだろうなあ・・・」
と、焼いた蛙をほおばりながら、彼は呟いた。

「要するに!」
会議室の空気が震えた。
「殺してしまえばいいんだろうが!」
はあ・・・と、ため息の声が聞こえる。
わが国のタカ派は優秀な軍人であるが、厄介な所もある。
この、血の気の多さだ!
「いいかね、マルシュ・ヴェカルローブ少将。あくまで、
 これは未確認情報なのだ。続けてくれ、大尉。」
歴戦の勇士で名高い提督が、タカ派をなだめて、
若いキャリア士官に書類をもう一度読めと促した。
「は!ええ、わが国の、ここですね。クラナ島です。
 ここに、未確認船舶が進入したとの情報があります。
 国籍不明の、モーターボートです。前後関係からして、
 暦の物である可能性は高く、さらに、そのモーターボートはこの、
 衛星写真によると、それから一時間三十四分後に破壊され、
 いや、自爆といったほうがいいでしょうか。
 とにかく消失して、何者かがここで秘密工作活動を行っている事が、
 予想されています。現時点で、ですが。
 しかし、暦による秘密工作活動は、欧米諸国に大打撃を与えています、
 それがわが国に降りかかるとなると、非常に危険な状態に陥ります。」
「だから!殺してしまえばいいのです!特殊部隊を派遣しましょう!」
またかよ・・
この会議はさっきからこういうことをぐるぐると繰り返している。
暦の危険性は全員が熟知している。
が、なんにせよ不景気、資金不足、アメちゃんの目も光っている。
迂闊な行動はとれない。
それに、先の内戦で、自国の力はがた落ちしている。
「暦は一国家なみの力を誇ると言うではないか!
 それもわが国のような途上国ではなく、先進国級のな。」
「それに戦闘力も高い。特殊部隊が返り討ちに合う可能性だってある。」
「なんにせよ、由々しき事態だ。」
タカ派が尚も繰り返す。
「だから、ころし・・・」
「「「「もういいって。」」」」
思わず、全員が口を開けていた。
こんこん。
不意に、ドアがノックされた。
「なんだ?軍事会議中だぞ。」
「いやはや、この国がですか?どうにも似合いませんなあ!」
一人の男が許しもうけずに、ずかずかと会議場へ上がりこんできた。
スーツで黒髪に眼鏡、一見すると東洋人だが、前髪で隠れたその瞳は蒼。
すぐさま、この男が何者か知れた。
「あ、R・J・H!戦争屋!」
「ご名答。さすがに内戦時の恩は忘れていないようですね。
 まあ、イージスを何隻か提供しましたから、忘れる物では無いと・・」
「今度はどんな暴利をふっかけにきたんだ!ロット!」
ロットは、かなり意外な顔をした。
「失礼ですなあ。誰のおかげで勝てたと思っているんです?」
だが、会議場にいた軍上層部のお偉方全員が、髪を振り乱し、
冷や汗を流し、顔を真っ赤にして吠えた。
「その貴様があの後、いったい、いくら請求したんだ!」
「そうだ!そうだ!」
「国家が転覆するかと思ったぞ!」
「とにかく、貴様がこの件に関して首をつっこんでくるいわれはない!」
「帰れ!帰りたまえ!」
ロットは、飄々としていた。
「そうですか。ならば結構です。せっかく三個師団分の兵器をタダで、
 貸そうと思ったのですが、残念です。」
狭い議場の空気が、ぴたりと止まった。
全員が生唾を飲み込んだ音とともに、眼が点になっていた。
ロットは、あえて無視して外に出ようとした。
すかさず、お偉方が彼を引き止める。
まってくれ!どういうことだ!われわれに、ほんとうにか!じゆうに?
つかってもいいのか?三個師団といえばとてつもない戦力だ!
すごい、すごいぞ!それを操り、暦を討つのだ!あ、ああ、どこにいく!
「黙らないか!この愚か者!」
それまで、沈黙を守ってきた提督が、その喧騒に終止符をうった。
「・・・・・何のつもりだ、戦争屋。何が目的なのだ?」
ロットは、部屋を出る寸前にぴたりと止まった。
「デモンストレーションです。
 あなた方でも我が社の師団は使いこなせるか、これにかかってます。
 我が社の、これからのビジネスがね。」
「・・・・ビジネス、か。」
軍人とは、そもそも愛国心の塊だ。
国のために働き、国を守り、戦う。ところが、彼らは違う。
ビジネス。これ一点張り。
それで得られるものは金と信頼、しかも軍隊よりもすごい量なのだ。
提督は、それに歯がゆさを感じていた。
だが、興味もあった。
彼らとともにあって、得られるものは何か。それが気になる。
だから、妥協する事にした。
「言い訳は、どうする?」
「テロリストグループが立てこもっているとでも、なんとでも、
 いえるでしょう。丁度、凱大統領機の事件があったばかりだ。」
くく・・と、提督はその白い髭にまみれた顔を微笑させた。
「さすが、だな。」

「おや?」
「ん?」
二人の目線が、草むら越しにお互いにあった。
その瞬間、二人とも叫んだ。
「人だあああああああああ!」
こうして、葎とプロトはこんな絶海の孤島でめぐり合ったのである。
それは、二人にとって久々に人の匂いを感じたことでもあった。


 


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