外伝 F・O・W
〜忘れ得ぬ光〜


第9話

作者 かみぃゆ


白いテンガロン。
いまどき誰もこんな帽子は好んで被りはしないだろう。

ピューピューと軽快なリズムを刻みながら、口笛は風に乗る。

「ぃやぁ、ご苦労だねぇ」
かろうじて口元だけは見える表情は『薄笑み』だった。

刹那、なにか鞭のようなものが撓った。
『バチ、バチ、バチ』というなにかの破裂音と共に白いテンガロンの男の背後で3体の影が崩れ落ちた。
「本物はこんなもんじゃないだろ?喧嘩をなめんじゃねーよ!…なぁ〜んて、どっかの”誰かさん”の受け売りだが。」

崩れ落ちた影は、チャイナ服の髪の長い女、褐色肌のインディゴ風の少年、そしてGジャンを羽織った金髪の少女。
どれもどこか生気を無くした人形のようだった。
その証拠に彼らは白いテンガロンの男の”鞭打”に対してなんの反応も見せずに崩れたのだ。

「だがまぁ、それじゃぁ、世界で・・・何百番目かな?」

白いテンガロンの男は”ソレ”を袖の奥にしまい、路地を後にした。
「知るっていうのも、…めんどくさいねぇ・・・へっ」




外伝F・O・W 〜忘れ得ぬ光〜 第九話
                 仏滅の縁日



器械の呼び出し音。無機質な音。
(いつ聞いても好きにはなれないな。)
気だるい気持ちを抑えて彼は携帯を取り出した。

「…ヴァイスだ。」
『ごきげんよう。アダム。体の調子はどうかしら?』
「その名で呼ぶのはやめろ。用件は聞くまでもないが、建前は必要か?」
『ふふふ、結構よ。あなたの想像通り。で、どうかしら?そっちは』
「順調だと言っておこう。…まぁ現状では不備はない。」
『体の不備はどう?アダム』
”アダム”の呼び名に少し反応したが、彼はあえて返さないことにした。
「貴様に気遣いを受けるほどは落ちぶれてはいない。用件がそれだけなら回線を切るぞ。」
『やせ我慢は体に毒よ?悪巧みは、体が資本ですからね。元・”暦”幹部なら解るでしょ?』
悪巧み…食えない女だ。俺がなにをしようとまでは解らずとも、なにか勘付いている。慎重に運ばなければ、
「あぁ、正直言うとまだ頭痛がする。この頭痛はいつまで続くんだ?」
『あなたが”もう一度”死ぬまでよ。アダム』

回線を切ったあとも頭痛は続いていた。
…頭痛、か。そういえば9月の部下の一人もいつもそう嘆いていたな・・・。
他の暦幹部は一体どうしたのだろうか?

―今日の俺はどうかしている。

他人のことなどどうでもいい。あの飯高とはりあえるのは恐らく、奴のみか・・・。
自分に残された時間は長くない。
早く、奴を…。


『アダム様、準備が整いました。』
「そうか、入れ。」
暗い部屋に部下の…名も知らない男が入ってきた。

「それでは10分後にプラン”α"に移る。」
「はっ!」
ゆっくりと気だるく立ち上がると、これからのことに更に頭が痛くなる。

「それと修正を一つ。人員を一人削減する。」
「は?」
俺が俺であることの唯一の証明はこの力だけになってしまったような気がする。

―6ハンド。念の腕。殺傷能力レベルは、10段階でいうところの7、8といったところか・・・。

部下の兵士の頭を念の腕で潰しながら言った。
「その名で呼ぶことは許さん。」






続く


 
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