涅槃幹部裏設定 〜帰郷〜


俺は二回しか泣いたことが無い…一度目は生まれたとき、


二度目は…………





バラバラバラバラ…………

朝もやの中を一台の黒い軍用ヘリがゆっくりと突き進んでいく。
何も迷うことが無いかのように、真っ直ぐと…
その黒いヘリを操縦しているのは、黒いコートに黒いズボン、
黒い靴、おまけに黒いサングラスと、全身黒ずくめの金髪の青年。

「そろそろだな……相棒…」

青年はそう呟いた。だが、このヘリには、彼以外誰も乗り込んでいない。
今、ヘリが飛んでいる場所は……イギリスのとある山間部。
眼下には、鬱蒼と茂った、針葉樹林が広がっている。

「抜け出したこと…帰ったら、誰かさんから嫌み連発かな……相棒…」

また、『相棒』へ向かって呟いた。返事など返ってくることはないと知りつつも。

抜け出した……そう、彼はある組織からこっそり抜け出してここに来ている。
その組織の名は、涅槃。彼は、涅槃の幹部の一人。
コードネーム、ブレードガンナー……本名、シェイド=オーウェン。
一年の内、この日だけは、他の幹部から何を言われようが、会議があろうが、
「本物の」雷が頭上から落ちようが、抜け出すと決めていた。

理由は誰にも言えないが………


さて、眼下には、先ほどの針葉樹林ではなく、草原が広がっている。
少し前方には、小さな村らしきものが見える。

「見えてきたな……」

シェイドは改めて、操縦桿を強く握り締めた。
村の入り口から少し離れた地点の上空で、ヘリをホバリングさせ、ゆっくりと下降をし始めた。
高度が低くなるにしたがって、降下地点の周りの草が、プロペラから発せられる風によって傾きを増していく。

着地……完了……

プロペラが完全に止まったことを確認し、コックピットの隅にあるボタンを押した後、
シェイドはヘリから降りた……彼を出迎えるかのように、高山の風が通り過ぎて行く。
2、3歩歩いた後、ヘリの方へ振り返ってこう言った。

「待っててな、相棒……暗くなるまでには戻る…」


一歩、また一歩……シェイドは村の石畳の道をを進んでいく。
村には人っ子一人いない……早朝だから、という意味ではなく、
人が住んでいる気配自体全くない……
更に言えば………石の塀、家々の壁には、いくつもの弾痕が…
そんな事など一切気にもせず、彼は村の外れへと向かっていく。
村の外れにあったもの………それは一軒の崩れかかった家。
御多分に洩れず、この家の壁にも、数え切れない弾痕がある。
家が崩れかかっているにも関わらず、シェイドはその家のドアを開け、中へ入って行った。

家の中には誰も居なかった。ただ、テーブルやら何やら、家具が置いてあるだけである。
その家具にも、やはり、弾痕が幾つか付いていた……
シェイドは立ったまま、家の中を見回す……見回した後、家の中をゆっくりと歩き回る。
窓という窓はほぼ全てガラスが割れていた。そのために、雨が吹き込み、床が腐っているのか、
歩くたびに、ギッ、ギッ、と、音を立てる。
ガラスの無い窓から外を眺めたり、家具を多少触りながら、家の中を一周した後、
家の入り口であるドアのノブに手をかけた。そして、後ろを向き、
もう一度、家の中をゆっくりと見回した……



あの時、俺はここには居なかった………俺が居た場所は……


 


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