涅槃幹部裏設定 〜帰郷〜
2
| あの時、俺はここには居なかった………俺が居た場所は…… シェイドは村の中心の方へと歩を進めていく。 辺りを見回しながら、ゆっくりと、石畳の道を踏みしめて歩く。 やはり、人が住んでいる気配など微塵も無い。 あるのは、家、家、家……塀、塀、塀…… それらには全て……弾痕、弾痕、弾痕………… あの時………俺がいた場所は…… 一軒の家の前で、シェイドは立ち止まった。先程入った家よりは、まだしっかりと建っている。 しばらく、その家を見上げる……2階の窓は、やはり、ガラスが無かった。 そして、2、3歩進み、ドアノブに手を掛けた…… そこに居たのは……金髪の少年と、赤毛の少女… 少年は少女に、小さな箱を手渡した。その箱を開ける少女… 中に入っていたのは……金の鎖のネックレス… お互いに微笑み合い、少年は少女に、ネックレスを付けてみるよう、促した。 そして、少女がネックレスを付け、また、少年と微笑み合った……その時だった。 ジープの音が外から響いたと思った瞬間、窓を貫いて無数の銃弾が2人を襲った。 無数の銃弾に体を貫かれ、夥しい血と共に倒れる2人… 銃声はまだ鳴り響いている……人々の悲鳴も四方八方から聞こえてくる。 と、少年の方は、ゆっくりと…苦しそうに立ち上がった。 背中は赤い血で染まっている……足を引き摺りながら、少女の元へ駆け寄った。 まだ息はあった……少年は少女を抱きかかえ、家の裏口の方へと向かう…… ドアを開け…危険だと知りつつも……外へと足を踏み出した…… シェイドは彼らの後を歩いて追った……多少距離をとりながら… 外は惨劇そのものだった……石畳の道は血の海となり、 銃に撃たれ、もがき苦しむ人々……また、かつて人だったものが沢山あった。 死から逃れようとする人々が行こうとする先……村の中心にある教会… 同じく、少年も、少女を抱えながら、足を引き摺り、そこを目指す。 常に少女に話しかけながら……少女の意識を無くさないように気遣いながら… シェイドには何も聞こえなかった。 だから、少年が少女に何と言っているのか、少女が少年に何と頷いているのか、聞こえなかった。 距離をとって付いて来ているからではない。 証拠に、人々の悲鳴も、呻き声も、全く聞こえなかった。 彼の耳に聞こえていたもの…自分が石畳を踏みしめる音、吹き抜ける風の音、 そして…… 銃声…… 少年は淡々と教会の方向へと歩いていく。 しかし、先程より足取りが重く、痛みが酷くなって来たのか、 時折顔を歪ませながら…それでも少女に常時話しかけながら… 少女も、少年の言葉に対して、何度も何度も頷く。 だが、回を重ねていく毎に、少女が頷く力が無くなっていくように見える。 二人の服の色は、もう血の色一色に染まってしまった。 少年が少女に贈った金のネックレスも、既にこの色だ……… そして、その後を、シェイドは顔色一つ変えないで付いて行く。 何分歩いただろうか…白い建築物が見えてきた。 この村に一つしかない教会…村の小ささの割りに、一際大きな教会。 既に幾人の怪我人が担ぎこまれている。 と、シスターの一人が彼ら二人に気づいた。 少年は、シスターに、自分の事は良いから、少女の方を先に運ぶよう促す。 少女が教会へと担ぎこまれたのを見届けた後、 少年はついに意識を失い、その場に倒れてしまった。 何時意識を取り戻したかは…もう覚えていない… シェイドは教会の奥の部屋へ入った。何人もの人々がそこで手当てを受けられていた。 その中に、あの少年も居た。まだ意識を取り戻したばかりか、周りをゆっくりと見回している。 体中には包帯が巻かれていた。包帯の大部分には血が滲んでいる。 その時、少年の横を一人のシスターが通り掛かった。それを呼び止め、何かをシスターに聞く少年。 …当然、内容はシェイドには聞こえない。 何かを質問されたシスターは一瞬少年から目を逸らした。 少年は立ち上がり、シスターの肩を揺すって、語勢を強くして聞く。 すると、シスターは少し口を開け、短く何かを少年に告げた。 その途端、少年は駆け出した…シスターが止めるのを振り切って… 少年はシェイドに向かって一直線に突き進んできた。 そして、シェイドを擦り抜け、そのままの勢いで部屋から出て行ってしまった。 数十秒経ってから、シェイドもその部屋を出る。 部屋を出たシェイドの目に飛び込んできた光景…並べられた夥しい数の死体… その中に、もう動くことの無い少女を抱いて泣き叫ぶ少年の姿… 叫び声さえも、シェイドの耳には届かない… 少年の目から流れた涙は、少女の頬へと落ちて行く… しかし、少女の目が開くことは二度と無かった。 俺は二度しか泣いたことが無い…一度目は生まれたとき… 二度目は……… |
| 第3話に進む |
| 第1話に進む |
| 図書館に戻る |