涅槃幹部裏設定 〜帰郷〜


来た時よりゆっくりと元来た道をシェイドは戻り始めた。
サングラスは取ったまま……気付いていないのだろうか……
虚ろで悲しい目のまま……何処かに焦点を合わそうともせずに…

「帰るのかえ…?」

坂を上りきった辺りで、不意に後ろから言葉が飛んできた。

「ああ……」

後ろを振り返らずに答える…
どうやら、サングラスを掛けていないことは分かっているらしい…

「また一年間、こいつと二人きり……という訳かい…」

「すぐにすぎるさ……」

「まぁ、そうかもしれんがね……一応言っておくが……
 一年に一回といわず、苦しくなったら、いつでも戻ってきていいんじゃよ。
 わしとこいつしか迎えてやれんが……うむ、もう一人おったか…」

「……心に留めておくよ」

多分、そんな理由では帰らないとは思うが………
そう思いつつ、後ろも見ずにまたゆっくりと歩き出した。
またなーーー ……後ろからそう聞こえてきた。
無視しようかと思ったが、一応手は振っておいた…
声の主に背を向けたまま…


「悪ぃ……待たせた」

ゆっくりと帰りすぎた……もう空の色はダークブルーだ。
自動制御装置を解除し、フルスロットルで一気に空へと上がった。
真っ直ぐ帰ろう……と一瞬思ったものの、機首が自然と反対の方向へと行ってしまう…
気付いたら…飛んでいたのはあの石の群の上…

いいよな…お前は色々な空が見れて……
俺がいつも見ている空は……灰色一色だ……

口には出さなかった……出す気力も無かった…
石の群の一点を何秒か見つめた後、機首をこんどこそ帰る方向へ向けた。


半分思考を停止しながら操縦をしていた…
危険な場合、すぐに自動操縦に切り替わるから、まぁ安心だが…
何時間経ったか……やっと基地が目視できる距離まで近づいた…
見えてきたな………と思った瞬間、あることを思い出した…
急いで胸ポケットからサングラスを取り出し、慌てて掛ける。
見られてねぇよな……相棒……そう呟いたが、返事は無かった。

基地に降り立ち、ヘリから降りたとき、基地が騒然となっているのに気付いた…
そりゃあそうだよな……今深夜だし……ヘリの音で目くらいすぐに覚めるよな…
それ以前に、一日姿を消していたいたしな……

基地に入ったら、想像していた以上に騒々しい状態だった。
寝ぼけ眼でシェイドにお帰り、という者……
すれ違い様に嫌みをたっぷりと吐いていく者…(聞き流したので、さほど気にはならなかったが)
家具がどうとかこうとか、シェイドの顔を見た瞬間に畳み掛ける者…
(いくらなんでも、相棒を荷物運びに使用させるのは止めて頂きたい)
姿を確認した瞬間、さっきの眠気は何処へ行ったのか、
何処へ行っていたか、何をしていたか…その他色々質問を浴びせてくる者…
無視したり、適当にはぐらかして質問に答えていたら、
(質問を言った本人と顔を一切合わせなかったせいもあるだろうが…)
シェイドの馬鹿ーー!!  と、こんな言葉が後から追ってきた…
馬鹿で結構……自分は自分から逃げている大馬鹿者……

更に後ろから騒ぎ声と、何かがぶっ壊れる音が聞こえてきた…
おそらく、ヘリの音で目が覚めて、殺人衝動でも引き起こしたのだろう…
しかし、自分には関係ない……関わりたくも無い……
後ろの騒ぎなど、遥か彼方の一騒ぎ、としかとらえていない様子で、
シェイドは個室のドアノブに手を掛けた。
空けた瞬間、誰かの鴉が、後ろから、「邪魔ナンデスヨ」とシェイドに止めを刺すように言った。
それも一切気にせず、部屋の明かりも付けずに、
シェイドは椅子に座り、テーブルに突っ伏した……
遠くで、まだ何かが壊される音が響いていた。

そのまま寝てしまったらしい……気が付いたが……まだ日が昇る前だった。
窓からは、わずかに光が差し込んでいた。辺りは静まり返っている。
自分が帰ってきたときの騒ぎが全て嘘のように……
シェイドは椅子から立ち上がり、窓へと近づいた……
と、調度日が昇り始めた……太陽の光が、空を茜色に変えていく…
……基地の窓から見る空も、まんざらじゃねぇな……シェイドは呟く。
あー……腹減ったなぁ……そういや、昨日、何も食べてねぇ…
そう思ったが、しばらくそのまま立っていた…
太陽が地面から離れ、空の色がいつもの色へとだんだん変化していく…

さて……いつもの生活に戻るとしますか……シェイドは窓に向けて、踵を返した。



俺は二回しか泣いたことが無い…一度目は生まれたとき、


二度目は…………


………大切な人を


失ったとき………


 


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