KOFXXシリーズ
漆番隊
『それでも来た道』

作者 蓮華


【それでも来た道】

「サボりか?」

「まぁ、そんなところ」

気楽に寝ていた黒髪に傍らに紅い鞘の日本刀を置いた青年は金髪をポニーテールにした女を見て、苦笑した。
樹の上で寝ていたのは単に解りにくいだけだ。それでも、本気を出されればすぐにでも見つかる場所でもある。

「漆番隊隊長がサボっていて良いのか」

「優秀な副隊長が居るから」

「そう言う私もそうなんだがな……面倒だよな」

「アイリスとかウラヌス辺りはちゃんとやるんだが……」

こうして話している二人だが政府武力組織『ホーリーナイツ』の番隊である第漆番隊隊長と第零番隊隊長だ。
埋葬騎士団の異名を持つ漆番隊と、番隊の中で最も謎に包まれている零番隊、
此処にいる二人は漆番隊隊長である土方洋介と零番隊隊長であるレン・クライフォードだ。
レンが洋介にジュースの缶を投げる。
それを難なく洋介は掴むと、どこからか袋を取りだした。中身は手作りクッキーのようだった。
他の番隊の隊長の名前を二つほどあげる。現在、彼らがわざとさけている厄介なことが行われているのだ。

「そう言う風に見えるな。私も、アイリスは真面目だから」

「真面目で肩が凝らないのかね、アイツは」

何となく洋介が苦手にしている第二番隊隊長であるアイリス・ストライフは洋介よりも一つ下だが隊長をしていた。
洋介が十八歳でレンが十九歳、年齢的にもまだ若いが、隊長になれたのは実力があったからだ。

「確かに真面目だからね」

「ま、アイツが羨ましいって所もあるが」

「羨ましい……ね」

洋介は缶の中身を飲んでいた。中身はスポーツドリンクだった。レンも飲んでいる。

「聖女じゃないのか?あるいは聖人、回りからの信頼も絶大で実力もある。それに真っ直ぐで」

「……そう見えるのか?」

本当に言いたいことをまだ言っていないと言うことをレンは判断した。最初に建前をたてるのだ。
それから、本題へと入る。今日だってそうだった。

「これは俺の個人的意見なんだが――」

洋介は個人的意見をレンに語った。レンは苦笑のような、同意のような表情を見せた。

「―――なるほど、アンタらしい意見だ」

苦笑していた。クッキーを食べている。手作りらしく、市販のクッキーとはまた、違った味がしていた。

「……居た……」

シルバーパープルの髪の少女がこちら側に歩いてきていた。

「見つかったか……」

「エリー」

「……アインが探してた……私はレンを捜してた……」

最初の方を洋介にそれから次の方をレンに伝えた。エリーこと、エルミーナ・B・シェイド、零番隊の隊員だ。
部下であるアインが探していたと聞き、洋介は立ち上がる。残ったクッキーはレンに渡すことにした。

「行くかな。知らせてくれてどうも」

「……別に……良い……」

エリーは首を横に振った。無愛想で扱いづらいと回りから言われているエリーだったが洋介としてはそうではなかった。
どちらかというと、扱いにくいのは他にいるからだ。アインと合流しようとしていた洋介だったが、ふと、足を止めて振り返った。

「『テスカトリポカ』第471工蔽を襲撃するって本当か?」

「どこでそんな情報を入手してきたんだ?洋介……」

いきなり話題を振られ、レンは食べていたクッキーを喉に詰まらせかけた。エリーも目を見開いている。
まだ一部でしか知られていない情報を洋介は口にした。番隊の情報というのは伝わるのが意外と遅いのだが
洋介の場合そうではないらしい。『テスカトリポカ』アステカ神話における戦士の神の名前だが
ここでの意味は組織の名前だ。『ホーリーナイツ』が相手にしている組織というのは両手に余るほどある。
その中の一つだが『テスカトリポカ』は『闘争を求める者達によりよい闘争を』をコンセプトにしている組織だ。

「………うん……本当……」

「武運を祈るよ。帰ってきたら……」

「そうだね。洋介のおごりで何か食べるとか」

「それも良いかもな。ただし、数人だけだぞ?無理するな。二人とも」

「……解った……」

それが、最後の会話だったような気がする。この後にも話したかも知れないが、印象に残っているのはこの話だったのだ。
昔になってしまった記憶を観た。それは夢という形でだったけれど、あれからずいぶんと様変わりしてしまった。

「お待たせしました。隊長」

学校の屋上らしいところにブレザーを着た栗色の髪を三つ編みにした少女がやってきた。学生服を一分の隙もなく
着こなしている。現在―――洋介は高校生をしていた。

「別に待ってない」

「……何か、ありました?」

心配そうに聞いている少女を見る。眉を寄せていた。洋介は心配を振り払うかのように言う。逆効果かも知れないが。

「昔、をな……」


焦げ茶色の髪にラピスラズリの瞳をした青年はようやく執務室へと帰ってくることが出来た。ドアに手をかける。
少しだけ躊躇してドアを開けた。迎えたのは人ではなく、飛んできたナイフだった。それを掴んだ。

「物騒ですね」

「避けられたなら良いだろう」

悪びれることもなく言ったのは琥珀色の髪の毛をした緑色の服を着ている青年だ。

「ヌルさん、止めてくださいよ」

「そう言うな。ツヴァイ、隊長代理はどうだ?」

「アインさんが居ないときついですね」

正直な感想を言いながらツヴァイ・セルトラックはヌル・ティルクレスに言う。現在、漆番隊をまとめているのは彼だ。
元々、隊長である洋介は仕事をツヴァイに押しつけているのだが、隊長自身が任務に就いてしまったために
こうしてツヴァイがしているのだ。仕事を手伝ってくれるアインも今は居ない。

「気の毒だ」

「手伝ってください。それに貴方があの任務を持ってきたんですよ」

「ちゃんと手伝うさ……休暇はいるだろ?洋介に、あの事件で色々大変だったし」

あの事件と聞いてツヴァイが僅かに嫌そうな顔をした。どうやら、ヌルが出したあの事件というのはツヴァイは
聞きたくないような話題だったらしい。

「レン元隊長のこと、エリーさんのこと、色々ありましたから」

「あたふたしていたな」

ツヴァイは紅茶を入れ始めた。ヌルの分も入れている。
あたふたしていた―――――第零番隊が『テスカトリポカ』第471工蔽を襲撃したとき、何らかの事故があり
それにより第零番隊は壊滅状態、退却を命じたもののエリーが行方不明となった。殺されたかも知れない。
真偽のほどは曖昧だが、レンがその罪の意識から『ホーリーナイツ』を去った。そして……あの事件もあった。

「事件の真偽は?」

「調べてる最中だ。零番隊の新しい隊長は確か……?」

「アリス・レイフォードさんですよ」

「知ってるな、剣と暗器使いの、俺とどっちが強いか」

軽く手を振ると出てきたナイフをヌルはテーブルの上にあったリンゴに突き刺すと向き始めた。
ツヴァイが二人分の紅茶を入れて持ってくる。お茶菓子もあった。

「隊長もアインさんも学校になれてるでしょうかね」

「日常でさえも特殊な空間だった場合は違和感ないだろ」

「……それって」

「やっていけるだろ。……そうそう、面白い情報がある」

漆番隊の中でも『セブントリガー』と呼ばれる面々が居る。その名の通り七人いると思われている部隊だ。
実際の所、それは違っていて、本当は八人いる。零を数えないだけだ。零と弐がお茶会を開いていた。
シャク、とリンゴをかじる音がした。


 
『それでも来た道』2に続く
図書館に戻る