KOFXXシリーズ
漆番隊
『それでも来た道』

作者 蓮華


「さっきの発言は隊長とアインさんに失礼な気がしますが」

「何でだ?特殊な空間というのは何処にでもあるぞ」

ヌルは話しながら、紅茶を飲んでいる。ツヴァイの入れた紅茶というのは美味しい。

「それはそうですけどね……」

特殊な空間……それは何処にでもあるし、何処にもないのだ。何が特殊で、何が特殊ではないのか。
戦場が特殊な空間になる者もいれば、日常生活が特殊な空間になる者もいる。要するにその人次第なのだ。


「ヌルは……何故、こんな任務を?」

「アイツなりの考えがあるんだろうし」

屋上にして、アイン・ファルト……ここでの名前は一ノ瀬碧……が言う。性分のせいか何処か堅苦しい雰囲気をしている。
アインの国籍はポーランドにあるのだが、日本人の血がどこかに入っているらしく、とりあえず偽名を決めようと
言うことになったときにアインがドイツ語で一なので一ノ瀬という名字とアインという発音をもじって一ノ瀬碧にした。
留学生として入ってくるよりも日本人として入ってきた方が楽だったからだ。洋介の場合は本名を使っていた。
ヌルは闘うことも出来るが、情報収集を好んでしていた。アインも情報収集は得意なのだがヌルも得意だ。
お陰で完璧や正確とは言えないが他の番隊の情報や『ホーリーナイツ』の敵に当たる組織のことを把握できていた。
たまにヌルが任務を持ってくることがある。今だってそうだった。

「隊長が動くことはなかったはずですけどね」

「『ホーリーナイツ』に居ただけでは解らないこともあるし、それにだ」

「それに?」

「学校生活というのをやったことがなかったし」

洋介にとって高校生活が始めての学校生活にあたる。アインもよく洋介の過去は知らないのだが、聞かないことにしていた。

「日本は以外と良い国ですね」

「まあ……な。俺が想うに世界でもかなりマシな方だろう」

「そうですね…少なくとも、内乱をやっている国よりは遙かにマシですが」

「で、ツヴァイからの連絡は?」

「書類です。それに全部書いてありますが、後は……十一……」

アインが取りだした封筒を渡した。他にも何かを伝えようとすると放送が鳴り響いた。

『碧ちゃーん、来て!大変なの!!』

『誰だよ!?数学のプリントをシュレッダーにかけた奴!』

『締め切りが一時間しかないんだ。一ノ瀬さーん!!』

それは放送と言うよりも、教室の騒ぎをそのまま切り取ってきて放送に乗せたかのような感じだった。
洋介は少し、反応が遅れた。アインも額に手を当てている。放送から聞こえてきた声は必死だったのだが、騒がしかった。
話題をまとめると数学のプリントがシュレッダーにかけられて、締め切りが一時間しかないらしい。
アインは数学は得意中の得意だ。説明もアインは得意だ。

「……お前のクラスメイトか?」

「はい……行ってきます」

「クラス、慣れてきたみたいだな。楽しいか?」

洋介の問いにアインは少し照れながら答えた。

「はい……」

アインにとって学校生活とは洋介と同じく始めてで、楽しいのだ。
一礼すると、階段を下りていく。どうやら、慣れてきているらしい。
屋上から見下ろした景色にはグラウンドや学校帰りの生徒など、少しずつだが慣れてきた風景が写っていた。

「そうだ、俺も用事があったんだ」

大事な用事を想い出すと、洋介も屋上を去っていった。


辺りが薄暗くなってきたとき、制服から私服に着替えて洋介は人を待っていた。スポーツバッグを手に持っていた。
少しすると、待ち人がやってきた。

「待った?」

「そんなに待ってない」

聞いたのは小春日和のようなぼんやりとした雰囲気をしている青年だった。草薙飛鳥、洋介のクラスメイトだ。

「十隠さんと朽樹さんはライブ会場で待っているみたいだし」

「なら行くか」

ライブ会場……と言っても飛鳥と洋介がライブをするわけではない。チケットを貰ったのでライブに行くことにしたのだ。
四枚分あった。町は夜に満たされていった。昼と夜では町は雰囲気をがらりと変えることになる。
洋介はライブ会場に行くのは初めてだったのだが、チラシに地図が書いてあったのでそれを参考にしていた。
ライブと言っても単独ライブではなく、いろいろなバンドが集まってのライブのようだった。

「Baroque Heartって知ってる?」

「……いや」

「確か、それを目当てで行くみたいだけど」

洋介は音楽に疎い。疎いというか聞く暇が無いというか、大抵はフュンフやドライが買ってくる音楽を聴いている。
少しわかりにくいところにあったのだが、ライブハウスはすぐに見つかった。行くと、飛鳥と洋介を
待っていた少女二人が居た。一人は大人びていて、きりっ、とした雰囲気をしていた。もう一人は何だが
優しい雰囲気をしていて可愛らしい服を着ていた。

「洋の字と鳥の字、時間通りだね」

「時間はちゃんと守るんだ」

「お待たせ」

「……うん……」

大人びた洋服を着ている方が十隠霧絵で、可愛らしい洋服を着ている方が朽樹梓だった。二人とも、洋介と飛鳥のクラスメートだ。
洋介は回りの視線を感じていた。ダブルデートにでも想われているのか、一体どういうカップルになっているのかは不明だった。


 

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