『中国の凄い奴』

「・・・どうしてもやるのか?」
「ふふ、そうよ。出会いは素敵だったけど、別れは最悪になりそうね。」
「ああ、苦いよ。・・・お前の入れるコーヒーのようだ。」
暗い貨物倉庫の中、二人の男と女は、くくくと、薄笑いを交わした。
しかし、その光景をよくよく凝視してみると、一つアンバランスなことに気付く。
ガチリという金属音とともに、女の笑顔が消え、締まる。
「愛してたわ。・・・いえ、」
一筋の涙が頬をつたう。
哀れみにも似た瞳で、女を見つめる男。
「愛・・・してる・・・」

『ズキュー・・・ン!!』

銃声。そして、静寂。夜の闇―。
「あぁ・・・俺も・・・愛してた・・・。」
倒れたのは予想に反して女の方だった。そう、殺し屋である彼のほうが死の匂いに敏感だったのだ。しかし、とうに葬ったはずの感情が美しくも悲しい水滴に形を変え、流れ落ちた。
・・・涙。
それは心の雨、彼女を抱きながら彼は静寂に抱かれた。
『ズキュー・・ン!!』
もう一発の銃声とともに彼の息遣いも途絶えた。自らの右腕で自らの命を狩ったのだ。・・・せめて、殺し屋らしく・・・。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「はいカットォッ!!!!」
静かな倉庫に不釣合いな怒声ぢみた叫び声が響いた。
口から血を流して倒れていた女の瞳が開いた。途端に甘い猫なで声でこう言った。
「あン!もう・・・いくら芝居だからっていっても、あんな目で見られると、本気で惚れちゃいそうだわ・・・」
その問いに同じく頭から血を流した男が答える。
「あ、はは・・・、そうですか?いや、光栄です。・・・それで、あの」
「なぁに?」
「そろそろ僕の膝からどいてもらっても、いいですか?」
せかせかと動きまわるスタッフらしき人間を背に男は苦笑いを浮かべた。
「あら?嫌なの?ショックだわ」
「ち、違いますよっ!ほ、ほら、最後の1テイクがあるから・・・」
そう、これはロケだ。今春封切り予定の新作「刃。そして、涙。」のロケ現場だったのだ。
女の役を演じていたのは、恋多き女性として十代、二十代の女性に絶大な人気を誇る国民的タレントだ。
そして、男の方はというと・・・。
「おーい!龍黄!!照明班にトラブルだ。しばらく空き時間があるから、どっかで暇つぶしでもしててくれー!」
跳飛 龍黄。
その名は中国だけでなく、もうすでに世界に知れ渡るほどの知名度かもしれない。
「何時間?」「あーそうだな・・・。4時間空きってとこか。」
「・・・じゃ、キュベレイをmk-Uカラーにしちゃおうっと。」
「キュベ・・・なに?」
「い、いや、僕用事があるんでっ!じゃっ!!」
「え?えぇ!?空きがあるんでしょ?食事でも・・・もう!私の誘いを断るの!!」
彼は笑いながら、せかせかと働くスタッフ達に一言残して行った。
「再見!(サイチェン)」と。
行き先は・・・ホビーショップ・・・。


第1話            完


第2話に続く
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