時を駆ける青年
第一話〜始まりの冬〜
作者 クラッシュさん
| ……冬…… 僕は休みの日に修行をしている。厳しい厳しい修行を、市川さんと。 ……今年は、僕が生きていた中で一番寒い年かもしれない。 父さんが死んでから、まだ3ヶ月しか経過していない。あの日、父さんが死んだ日、僕は泣いてしまった。喧嘩に負けても泣くことがなかった僕が…泣いた。いつも強気の母さんも泣いた。だけど、市川さんは泣かなかった。市川さんと父さんが一番の親友同士って話は母さんからたくさん聞いたけど、親友同士なのに泣かなかった。何故かはわからなかった。あの時の事は昨日の事のように思い出せる。市川さんに「なぜ、泣かなかったんですか?」と、何回も聞こうと思ったけど、聞けるわけがない。僕自身、思い出したくもない。 市川「オイ、起きろ、龍一。」 龍一「……すみません、あと五分……。」 市川「バカか!根性ねぇなぁ!お前、もう7時だぞ!」 龍一「すみません……でも、あと十分……」 市川「増えてんじゃねーか!!…ったく、変なところ親父に似てきたな。」 僕は父さんに似てきたって言葉に反応して素早く起きた。 市川「ウワッ!!ビックリしたぁ!!」 龍一「そんなに似てきましたか…?…僕。」 市川「あいつも学生時代遅刻ギリギリだったからなぁ。」 龍一「そうだったんですか?」 僕は市川さんの話を聞きながら着替えていく。そうだった、今日は日曜日。僕は昨日、市川さんの家に泊まっていたんだった。僕は休日になると市川さんの家に泊まり込む。市川さんはこう見えても、どえらい会社の副社長で、お金もたくさんあるから、僕の朝御飯や夕飯くらいは絶対に食べさせてくれる。僕は甘える気はないが、市川さんの修行が脳が痛くなるほど苦しい…おまけに体力を使うので、お腹が減る。ご飯を食べたくなるのは、まのがれない…… 龍一「市川さん、今日の朝飯は何ですか?」 市川「今日は、目玉焼き、玉子かけご飯、玉子スープ。」 龍一「市川さん、玉子って消化良くないんじゃ……」 市川「玉子は健康にいいぞ。」 龍一「勘弁してください。(この調子だと市川さん、もう作ってあるな…)」 市川「食わなくたっていいんだぜ?」 龍一「食べます!!食べます!!」 ・ ・ ・ ・ ■食卓 龍一「ごちそうさま、大変おいしくいただきました。」 市川「さすが、室伏の息子……全部食べやがった。」 龍一「父さんがよく言ってました。食わなきゃ強くならないぞって。」 市川「(あいつを信用するな、ってーか尊敬するな。)」 龍一「市川さん、今日の修行はなんですか?」 市川「あ?当然、ジャブとローキックだ。」 龍一「また?それなら、父さんに腐るほど教わりましたよ?」 市川「お前、ばっかだなぁ。室伏の技より、俺の方が強烈だ。一つ一つに重みがあるんだよ。」 龍一「市川さんのローキックも父さんのローキックもスタイルはかわらないけどなぁ…」 市川「うるせぇ。さあ、表出ろや。始めようぜ。」 龍一「はい!!でも、組み手もしましょうよ。やっぱ。」 市川「組み手もいいけどよ、怪我覚悟でやれよ?」 龍一「は、はい!」 僕はちょっとだけ、びびったけど、市川さんはそう言いながら、手加減してくれるから、嬉しく思う。 続く |