燕殲
参
草木も眠る丑密時・・・を参刻ほど過ぎた頃。周囲は微かに
明るくなってくる。薪売りなどはもう仕事に精を出している頃だろうか。
「朝ですよ、ミサツヤ」
昨夜からずっと機械をいじっていたにもかかわらず、一睡もしていない彼女は
「みっちゃん」を起こしに来る。神経は相当参るものだろうが、仕方ない。
仮眠を取らなかった自分が悪いのだ。
「ん・・・」
この様子を普通の人が見たらどう思うだろうか。「赤核暗殺心」とも呼ばれた
女の寝起きの姿。彼女も一端の女なのだから、辛い朝は判らんでもないが・・・。
「起きてください。もう五之時ですよ」
「・・・まだ五之時でしょ〜・・・まだ弐之間もあるじゃん・・・」
「まだ、じゃありませんよ。そう言って五之間も眠っていたのは誰ですか」
「・・・いつの話よ・・・」
今でこそ「忽」の一員となった二人だが、昔からも顔を合わせていた。
会話だけを聞くととても「忽」とは思えないが・・・
ハメを外せるのはここだけなのだから自然とこうなる物なのかもしれない。
「どうせアンタも寝てないんでしょ・・・イバに任せてアンタも寝たら?」
「他人任せはいけませんよ。私だって眠いんです」
「自業自得でしょ・・・私は寝る」
「〜・・・」
「忽」は特別部隊の体長クラスである為、
必然的に任務回数が多くなる。日付変更後に帰ることも珍しくない。
情報収集の任務など、時間帯が一定でないので、特に厳しい分野だ。
それこそ、白髪の男「イバ」は誉められてもいいものだとは思うが、
その性格ゆえに、ミサツヤには軽くあしらわれている。
「少しはイバを見習ったらどうですか?
少なくとも任務に対する意欲は貴方よりはあると思いますが」
「それはそれ、これはこれ。もし今ここにアイツがいたら何されるか
わかったもんじゃないわ・・・」
「今はいないでしょう。いい加減・・・・・・!」
後ろで少し物音がした。どうやらミサツヤには聞こえなかったらしい。
ユイは、後ろに目をやり、扉の向こうにいる「アイツ」を見て、目を棒にした。
「・・・・・・・・・・・・・・」
災難ですね、ミサツヤ。
イバは、気付かれないようにミサツヤに近づくと、そっと背中側に回り
ユイに向かって合図を送った。人差し指を立て、口の前で止める。
ユイは呆れたように肩をすくめ、部屋を出て行った。
イバはミサツヤが頭から被っている布団をおもむろに取った。
「!?なーによぉユイ・・・」
束の間の事であった。イバはミサツヤの胸をわし掴みにした。
「っ!?・・・なっ・・・・・・!!」
兵器を分解している時だった。向こうの部屋から大きな物音が聞こえた。
しばらくの沈黙の後、またもや大きな物音が聞こえてくる。今回はしばらく
終わりそうになかった。
(言わんこっちゃない・・・)
ユイは構わず作業を続けた。
「こぉんのぉ・・・助平野郎っ!!!一辺死ねっ!!」
「まあそう怒るな。挨拶代わりだろ」
「黙れっ!!もう今日と言う今日は絶対に殺す!!」
「怒った顔も可愛いぞ」
「うるさいっ!!」
刀を振り回すミサツヤの一撃を交わしつつ、イバは語りを続けた。
「今日の午後弐之時に来客があるそうだ。なんでも元「忽」の一員らしい。
丁重に扱えよ、俺達の先輩方なんだからな。・・・そうそう、今日の
お前の任務は午後壱拾之時からだそうだ。忘れるなよ。ま、それを伝えに
来ただけだ。じゃあな、シーユウ」
そう言うと、イバは姿を消した。
「先代「忽」ですか。我々の活動を見に来るわけですか?
きっとお嘆きになるでしょうねぇ・・・」
「・・・なんでも昔イバと同じ部隊で旧知の仲だそうよ」
「・・・私、何となく性格が読めました」
「・・・私も・・・」
「まあ、先代なのですから、腕は確かでしょうね。
イバに何を教えたのかは知りませんが・・・」
「それはそうとユイ」
「なんですか、部屋に鍵でもつけて欲しいと?」
「・・・警備のカラクリ兵器を見張りにしといてくれない?」
「・・・わかりました」
第4話に続く
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