大統領ゴライアス・ゴードン
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| *『こちら成田空港です。小竹総理との会談の為、初来日していた ガイア共和国のゴードン大統領が今日、ついに成田を発ちます。 ゴードン大統領は会談について、「今後の両国の関係をさらに よくしていきたい」と語っており‥‥』 日凱首脳会談を終え、総理官邸に着く小竹武総理と外務大臣。 心地よい春の季節にもかかわらず、二人の顔は暗く沈み、 額を絶えず汗が伝っていた。 「あれが‥‥ゴードン大統領か‥‥」 小竹がポツリとつぶやく。 そしてハンカチを取り出し、汗を拭いた。 後頭部まで後退した生え際までぬぐう。 「正直ね、私は奴と話している間‥‥ずっと怖かったのだよ」 「お察しします」 小竹と同世代くらいであろう外務大臣が労う。 「怖いといってもね、あのプロレスラーみたいな大きい体や、 顔がじゃあない。なんというか、雰囲気というか‥‥」 「ええ、わかります」 「常に主導権を握られている感じなんだ。いくらこちらに話を 持ってこようとしても、奴が口を開いた瞬間、アッというまに イニシアチブを取られてしまう。 別に愛想をふりまいてくるわけではない。それどころか 滅多に笑いもしない。しかし彼の話を聞くと、 自然と彼に従わなければならないような気持ちになって しまうんだ‥‥」 すっかり湿りきったハンカチをポケットにしまう。 「世論では‥‥私の支持率はかなり落ちている。 ‥‥実際私自身も総理になる"器"ではなかったと思っている」 「総理‥‥」 「だがね、それでも幾度となく国際政治の修羅場を潜り抜けてきた 私のカンが言っている」 「‥‥‥‥」 「『ゴライアス・ゴードンは危険な男』だと‥‥。 早く対策を打たなければ‥‥ この日本は奴の食い物にされるぞ‥‥!!」 成田空港ロビー。 世界の窓とも呼ばれるそこは、ゴードン大統領の出発に備え、 いつにもまして厳戒態勢がしかれていた。 飛行場にはガイア共和国大統領専用機が、主の搭乗を待っていた。 ロビーのソファでくつろぐ、1人の男。 年の頃は30歳くらい、アジア系の外国人だろうか。 もっとも世界中の人間が行き来するこの場で、 彼に気を止める者はいない。 ガッシリとした体躯、整った顔立ちだが、だらしなく着こなされた 古いジャケットにだらしなく広げた両足、あまり手入れされて ないであろう髪に、薄い無精ひげがさらにだらしのない印象を与える。 そして荒みきった険しい表情。しかし、その目は鋭く輝いていた。 獲物を狩る時の猛獣のごとく。 「アルバンス君かな!?」 名を呼ばれたその男が振り向く。 視線の先にはアルバンスよりも少し年上であろう恰幅の良い中年の男がいた。 丸い顔に丸い眼鏡、口の周りをヒゲが覆っていたが、アルバンスの それとは違い、手入れが施されていた。 半そでのシャツからたくましい腕が覗く。 「マッジオ!」 親友の顔に、アルバンスの表情がやわらいだ。 マッジオも笑顔でむかえる。 「ハハハ、ようアル!‥‥ひでぇツラだな、ヒゲぐらい剃れ」 「お前と違って土台がいいから構やしねぇよ」 「言うねえ。そうそう、今日はスペシャルゲストを連れてきたぜ」 「スペシャルゲスト?」 「会えば懐かしい顔だろう。バンハイ!」 「ハァ〜イ☆」 マッジオの声に、柱の向こうから1人の男が姿を現した。 2mを越えるであろう巨躯に褐色の肌。 豪快なアフロヘアーに長いマツゲ。濃ゆい笑みが実にソウルフル。 「ハハハハハ久しぶりだなアルバンス!三年ぶりくらいかぁ? それにしても俺をこんな楽しそうな『パーティー』に誘ってくれない なんて水臭ぇじゃねぇか!‥‥って、どうしたアルバンス? まさか俺を忘れたってんじゃねぇだろな!?」 「お前その髪‥‥何があった?」 |
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