大統領ゴライアス・ゴードン

最終話


*『こちら報道センターです!
 ただいま警察に無事保護されたガイア共和国のゴードン大統領と、
 国際警察の狙撃のスペシャリスト、長崎重臣氏がガッチリと固い握手を交わしました!
 ゴードン大統領によると、彼が放った一発の弾丸が大統領の命を救ったそうです!
 同じく人質となっていた事がわかった高校生の少女も無事保護されました。
 大統領機ハイジャック事件はここに一応の解決を見ました!
 警察は引き続き、犯人グループの身元の割り出しに‥‥』

「普通ワシとの握手が大々的に放送されるんでないの?」
管制塔の廊下で小竹総理は1人ぼやいた。
「いやあ、やはり長崎氏が今回のヒーローですからねぇ‥‥」
「なんであんな奴呼んでくれたのよ?」
「いやそんな事言われましても‥‥向こうから是非協力したい、ってやって来たんですから、断るわけにもいきませんし‥‥それにこうやってちゃんと解決してくれたわけですし‥‥」
そうこうしているうちにマスコミ群から別れたゴードン大統領がやってきた。
「やぁ、小竹総理」
「あ‥‥」
小竹がゴードンの手を握る。
「いやぁゴードン大統領!ご無事でなによりです!一時はどうなることかと‥‥
 本当に無事でよかった!」
「全く。日本のテロに対する警戒が薄いせいでとんだ目に会いましたよ‥‥」
「あ、いや、それは‥‥そのぅ‥‥」
「‥‥そうそう、総理にお土産です」
ゴードンが左手から何かを落とした。
それを両手で受け取る小竹。
「熱うッ!?」
しかしあまりの熱さに思わず床に落としてしまった。
床を転がるそれはかなり大きい口径の弾丸だった。
小竹は弾丸をハンカチで包んでゆっくりつまみあげた。
「???‥‥なぜゴードン大統領はこんな物を握っていたんだ‥‥?」
ゴードンはさっさと歩いていってしまった。

再びマスコミの攻勢に囲まれ、空港の外のリムジンへと乗り込むゴードン。
助手席には大統領補佐官キルマーが控えていた。
「だせ」
運転手が無言で車を走らせる。
リムジンが成田空港を後にした。
「‥‥お疲れ様でございました」
キルマーが労いの言葉をかける。
「ただいまからホテルへと戻ります。日本を発つのは明日になりそうです。
 ホテルに着き次第、代えのお召し物を用意いたします」
「キルマー、私の飛行機だが‥‥」
ゴードンは外の景色を眺めつつ言った。
「"後片付け"をよろしく頼む」
「御意」
「だいぶ食べ散らかしてしまったが‥‥」
「ご安心ください。この日本にもナガサキをはじめ閣下を慕う者は大勢おります」

ゴードンがアルバンスたちを殺した事実は表に出る事はないだろう。
『少女を守り抜いた大統領』の仮面は作られても、
『血塗られたカリスマ』の素顔がさらされる事はないだろう。

「手榴弾もくらった。だがこの服が丈夫で助かった」
「閣下の強靭な肉体の賜物でございます。いくらなんでも爆弾に耐えられるほどには作られておりませぬ。ときに閣下‥‥」
キルマーの目が鋭くなる。
「なんだ?」
「閣下と一緒にいたという娘の始末‥‥どうなさいましょう?」
「放っておけ。あの娘は"舞台"にいながらにして、結局最後まで私の素顔を知る事はなかった‥‥」
ゴードンの口元に笑みが浮かんだ。
「あんな強運の持ち主は見た事がない」

                      
                       『大統領ゴライアス・ゴードン』・完


 


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