大統領ゴライアス・ゴードン

14


「グリズリーも一撃で仕留める超強力弾だ‥‥」
大型拳銃の照準は完全にゴードンの頭に合わさっている。
祖国を滅ぼし、仲間も惨殺した怨敵。
ここにきて迷うには、アルバンスはあまりにも多くのものを失いすぎた。
「ラバンダが受けた痛み‥‥思い知れえぇぇぇぇぇーーーーーーー!!!!!」
「窓」

「窓」。
それがアルバンスが直に聞いた、大統領ゴライアス・ゴードンの唯一の肉声だった。


一瞬の静寂。
琴の糸一本を弾いたようなその声に従ってしまうとは。
目の前の怨敵から横の窓へと視界を移してしまうとは。

何の変哲もない、強化ガラスがはめられた飛行機の窓。
ビシッ、とその窓が蜘蛛の巣状にひび割れた。
その延長線上にいた自分の胸が、みるみる赤く染まっていくのを見た。

狙撃。


神よ。神よ。
あんまりじゃあないか。
なんであいつの味方をするんだ。
あいつは一体なんなんだ。
あいつは‥‥‥‥


「ゴライアス‥‥ゴー‥‥ド‥‥‥‥‥‥!」
体が重い。
息ができない。
だがこのまま終われない。
終われるわけがない。
最後の力を振り絞り、トリガーを引いた。

一発の銃声が轟いた。

「‥‥‥‥!」
雪絵は閉じていた目をゆっくりと開けた。
ハイジャック犯は倒れている。
そして、ゴードンは立っていた。
「‥‥大統領‥‥タマ‥‥当たらなかったんですか‥‥?」
「私がこうやって立っている事がその答えだと思うがね」
「は、はあ‥‥」
「‥‥‥‥もう大丈夫だ。奴らは全員死んだ」
「え、な‥‥なんで!?」
「どうやら仲間割れをしたらしい。彼が、最後の1人だった。
 よかったな、ここから無事に帰れるぞ」
「え、あ、ええ‥‥」
さっさと歩き始めるゴードン。
慌てて雪絵もついていく。
「あの‥‥大統領‥‥」
「なにかな?」
「‥‥どうしてあの窓から犯人が狙撃されるってわかったんですか?」
「‥‥さぁな」
歩きながら乱れた髪を手で直すゴードン。
「狙撃班ならそろそろあのぐらいの事、してくれると思っただけだ」
機内を流れる演奏はすでに終曲(フィナーレ)を迎えていた。

搭乗口からタラップへと出るゴードン大統領と雪絵。
大統領機を包囲していた警官隊から大きなざわめきが起こった。

ざわめきは歓声へ。

警官隊に守られ、マスコミや野次馬の歓声と喝采を浴びながら2人は空港の中を歩く。
「私たち‥‥本当に生きて帰れたんですね!」
「ああ、きっと神様が見守っていてくれたんだろう」
皆の盛大な祝福に、雪絵は思わず顔が上気した。
「いやぁ〜『正義は勝つ』、ってやつですよね!」
「‥‥‥‥‥‥。」


『突入〜〜〜〜!!!』
号令と共に、警官隊が機内へと雪崩れ込んだ。
真っ先に面の割れていたアルバンスが発見された。
「おい!こいつまだ息があるぞ!」
「おい!生きてるのか!?」


みんな死んだ。

チュンも。

ロネも。

バンハイも。

マッジオも。


「イ‥‥リ‥‥ア‥‥‥‥‥‥」
それが警官たちの聞いた、ハイジャック犯の最後の言葉だった。


 


最終話に続く
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