『KILL-MAN』


「どうぞ」
中の人間の了解を得、大統領補佐官キルマー・バレンタインはドアを開けた。

ガイア共和国首都ヘブンズヒル。
その中枢を担う新都庁舎『ゴライアス・ガーデン』。
その中の一室での出来事。

中にいたのは双子の兄弟。
黒いサングラスに黒いスーツのブラックグラス。
赤いサングラスに赤いスーツのレッドグラス。
ガーデンの警備を担当している彼らは休憩を利用して、ダーツを楽しんでいる所だった。
「首尾はどうだ?」
片眼鏡が光る。
「キルマー様、ガーデンは依然」「異常無しでございます」
「うむ、ご苦労」
単なる警備の確認作業。しかし重要な仕事だった。
「ダーツ、か‥‥‥」
黒と赤色のパネル入り混じった丸い的を見る。
「キルマー様もおやりになりますか?」
ブラックグラスがダーツの矢を手に勧める。
「‥‥‥少しやってみるか。真ん中は何点だ?」
「100点です」
「ふむ、矢をよこしなさい。いや、そこから投げてで、いい」
「は、はい」
ブラックグラスはキルマーに羽の付いた金属の針を一本、投げ渡した。
ゆるい放物線を描き飛んできたそれをキルマーは手で横にパシッ、と払った。
キルマーの力を授かった瞬間、矢は一直線に的へと向かった。
ビィンと音を立て、丸い的の外側ギリギリに刺さる。20点。
「お‥‥」「おお‥‥」
感心し、拍手するグラス兄弟。
「さすがキルマー様」「20点とはいえ、あのやり方で的に当てるとは‥‥」
「次」
「え?」
「次。早くよこしなさい」
キルマーは憮然として言った。
「は、はっ!」
ブラックグラスが再び矢を同じように投げ渡した。
それをキルマーはまた手で払う。
的にビィンと刺さる矢。40点。
「次」
「!‥‥‥」
次の矢を放った。
また手で払い当てる。今度は60点。
「次でラストにしよう。2本同時によこしなさい」
「は、はい‥‥」
2本飛んできたうち、1本を指で弾いて上へとやり、もう一本を手で払い飛ばす。
80点。
落下してきた最後の1本も払い飛ばした。
それは的の中心に、垂直に突き立った。
「マ‥‥マーベラス(お見事)!」「キルマー様はダーツの腕も天才的でいらっしゃる!」
拍手する事も忘れ、感嘆するグラス兄弟。
「ふむ。まぁまぁかな‥‥‥」
得意げになるわけでもなく、キルマーは部屋を出た。


天才?
笑わせるな。
私のどこが天才なものか。


「あれから15‥‥いや16年だったかな‥‥‥」
キルマーは思い出す。
真の天才と出会ったあの瞬間を。


 


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