スーパーロボット大戦
スノーマウンテン

第1話


 時は宇宙世紀と呼ばれる時代のことである。

 地球からもっとも遠いスペースコロニー『サイド3』はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対し宣戦を布告。
 後に『一年戦争』と呼ばれる独立戦争を開始した。

 戦力比は3:1と連邦が大きく上回る。だが、ジオン公国は巨大人型兵器『モビルスーツ』を戦場に投入し、物量で圧倒する地球連邦軍を撃破していった。
 人類史上初、戦争に巨大ロボットが用いられたのである。
 支配領域を地球まで伸ばしたジオンは、連邦の重要拠点……オデッサなどの鉱山地帯を集中的に制圧していった。
 宇宙での圧勝と電撃的ともいえる地球上陸作戦により、ジオンは一時、宇宙圏の大半と地球上の3分の1を制圧した。

 だが、ジオンの快進撃はここまでであった。

 各地域で反撃を見せる連邦軍所属のメタスルラッグと呼ばれる小型兵器、スーパーロボットと呼ばれる日本の超巨大兵器、暗躍する秘密結社BF団など……予想外の障壁にジオン軍は悩まされた。
 そうしている内に地球連邦軍は自製のMSを完成。事態は大きく変貌する。




 戦況は中盤へと差し掛かっていた。




 それはジオンの戦略図より遠く離れた北の地での物語。





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スーパーロボット大戦赤 短編
〜スノーマウンテン〜

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 これは遠く離れた北の地での物語。


「正気ですか!?」

 メガネの少年は、喰いかかるように褐色の青年へ言葉を投げつけた。

「正気も何も、それが一番手っ取り早いのさ」

 覇気に満ちた青年は、少年にニヤリと笑ってみせる。
 ドームポリスと呼ばれる人工都市から脱出してきた移動居住区ユニットは、ここ数日の猛吹雪で足止めを喰らっていた。

「見てみろ、この雪」

 青年は足元の雪を拾い上げると、丸く握り、地面へと落とした。
 雪玉はあっさりとつぶれた。

「こいつは人工雪だ。ゲイナーだって分かるだろ?」
「分かりませんよ。そんなの」
「おいおい……」

 青年は苦笑する。

「ともあれ、この人工雪が数日に渡って吹き荒れているのが問題だ。
 しかも、雪が止む気配すらない」
「だからって……キングゲイナーで様子を見て来いだなんて、無茶ですよ!」

 ゲイナーと呼ばれたメガネの少年は再び青年に怒声を浴びせる。
 だが、青年は相変わらず余裕の笑みを浮かべていた。

「いや、いけるさ……オーバーマンの『キングゲイナー』ならな。
 それとも……」

 青年はやれやれ……と言った風に肩を竦める。

「遭難するかも、とかいう心配でもしているのかな? ゲームチャンプ?」

 ゲイナーはムッとした顔を浮かべると、青年から背を向けた。

「いきますよ! いけばいいんでしょ!」


 これは遠く離れた北の地での物語。


「こちら、連邦軍情報部所属特務機関スパローズ隊のフィオリーナ・ジェルミです。
 どなたかいらっしゃいませんか?」

 フィオリーナ・ジェルミことフィオは、先ほどから通信機で連絡を取っていた。
 妨害電波でも発信されているのか、一向に繋がらない。

「困りましたですぅ」

 フィオは、どこかのほほんとした雰囲気を残したまま、首をかしげた。
 頭のポニーテールが揺れる。おヘソが剥き出しになった服装が少し寒そうだ。

 北の地において、猛吹雪と共に山岳が突如として出現したのだ。
 情報部は原因を追究する目的のため、スパローズ隊のフィオを派遣したのである。

 また、今回の目的はもう一つあり、メタルスラッグの最新機にして、メタルスラッグ初の人型兵器『スラグガンナー』の性能テストも含まれていた。
 スラグガンナーに乗り込んだフィオは、山岳に乗り込んだのだが……突如として通信機もレーダーも反応を示さなくなったのである。

 フィオはメガネのズレを直すと、やはりのんびりしたようにスラグガンナーを動かした。

「仕方ありません。もう少し、周囲を索敵しますぅ」


 これは遠く離れた北の地での物語。


「私のグフ・カスタムは動かせるか?」

 ジオン軍の基地にて。
 歴戦の勇者、ノリス・パッカート大佐は整備兵に声をかけた。
 整備兵は慌てて敬礼する。

「はっ! 動かせるであります! ですが……」

 言いよどむ整備兵に、ノリスは軽く目を伏せた。

「貴君の言いたいことは良く分かる。だが、私は行かねばならない。
 アイナ様のアプサラスの反応があの山岳付近で消えたのだ」
「しかし! この吹雪の中を出かけるのは、例えMSでも自殺行為かと!」
「心配するな。私は生きて帰る。アイナ様も連れて」

 ノリスは軽く微笑んだ。
 その瞳には静かなしかし強い決意と、何者にも曲げられない鉄の意志が宿っていた。
 整備兵はそこに大いなる魂の力を感じずにはいられなかった。

「グフ・カスタム。出すぞ」
「はっ!」


 これは遠く離れた北の地での物語。


 四本腕のロボットの肩に乗った老人が哄笑を上げていた。

「はーっはっはっはッ! 良くぞノコノコと来たなツインビー!
 今日こそオマエを倒し、宇宙一の天才科学者がワシであることを世界に知らしめてやるのだ!」

 老人はビシリと丸いボールのようなロボットを指差した。
 丸いボールのようなロボット……ツインビーは、辺りをキョロキョロと見回した。
 暴風と雪が吹きすさび、荒れ狂う龍のごとく雪山を形成していった。

「何と言うか……こういう努力を惜しまないのは相変わらず凄いビー」
「はーっはっはっ! どうだ、参ったか!」
「だけど、その努力は今回も無駄になるさ」

 唐突に声がツインビーの中から、少年の声が響いた。

「いつものように、倒されるからな! ワルモン博士!」



 東京。
 異世界セフィーロの降臨と共に戦場と化した地に、少女はいた。
 赤毛の髪を三つ編みに結った炎の宝石を手の甲に宿した少女。

 名を獅堂光。

 そして、相対するのは甲冑を身にまとった黒髪の青年。

 名をランティス。

「所詮……お前も運命に弄ばれただけだ」
「違う……私は選ばれたんだ!」

 ランティスの言葉に、光は手を握り締め反論する。

「私は世界を救うために『魔神―マシン―』に選ばれたんだ!」

 その瞬間。

 光の周囲は一転した。

 荒廃した東京の街並みではなく、そこは猛り狂う吹雪の雪山であった。

『もし、お前が本当に選ばれた存在ならば、こんな場所から直ぐにでも帰ってこれるはずだ』
「待ってくれ! こんな意地悪をしないでくれ!」

 光は吹雪を吹き飛ばすように声を張り上げる。
 しかし、風に呑まれ響き渡ることなく霧散する。

「私は守らなくちゃいけないんだ! 皆を! 海ちゃんと風ちゃんを!!」

 光は力の限り絶叫する。
 だがその声は、決して周囲に響くことはなかった。


 これは遠く離れた北の地での物語。


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