スーパーロボット大戦赤
スノーマウンテン
第12話
スノーマンの無骨で、モビルスーツなどに比べて古臭くみえる機械の4つの腕は、錆付いた鉄の扉が開くように甲高い悲鳴を上げながら広げられた。
前方2本はミサイルにも匹敵する威力を秘めた圧縮型硬質雪球を作り出し、後方2本は鋼鉄の巨体を軽々と飛ばす烈風を巻き起こす。
最新技術を駆使して原始的に雪球で攻撃方法を基本とする、これでもかと機能美に反し……にもかかわらず、他者を圧倒する純粋な破壊力の高さを持った矛盾に満ちたロボット。
その姿は、さながら、神・阿修羅を彷彿させる多手の巨神だ。
もっともと、2本足りない4本腕だが。
それが……起動した。
前方2本の腕から、一つひとつが人間より遥かに巨大な雪球が、真上に向かって無数に打ち出される。
後方の腕は、ジプシーの舞姫が吹きすさぶ風の神に祈願する手のごとくうねらせ、鮮烈な旋風を巻き起こした。
圧縮型硬質雪球は、風によって空中で方向を変え、流星となってキングゲイナーへと降り注ぐ。
縦断爆撃・雪球版とも言える攻撃であった。
が。
「そんな攻撃は当たらない!!」
かつてキングゲイナーを鬼と形容した人間がいた。
白く太い髪を振り乱し、線状の瞳が睨み付け、手にしたチェーンソーガンが唸りを上げる。
攻撃の手を決して休ませず、同時に雪球を縦横無尽にかわしていく。
攻守を一度に行なっていたのだ。
その姿はさながら、波動をまとった悪鬼羅刹。
スノーマンが、雪球を打つのをやめる。
あまり賢いとは思えない雪男阿修羅のAIは、それでも、白い悪鬼には雪遊びが出来ぬと判断したのだろう。
全4本が、水平へと広げられた。
勢いをつけた豪腕が唸り上げる。
「く!」
ゲイナーは、小さく呻くと上空へキングゲイナーを飛びたたせる。
下方から衝撃が突き抜け、機体が振動でブレる。
ゲイナーの身体にシートベルトが食い込み、思わず歯を噛み締める。
スノーマンがしたことは、言ってしまえば……攻撃を避けられたため……ただ『手を叩いた』だけなのだ。
だが、それによって発生した衝撃波が、キングゲイナーを突き抜けたのだ。
重量ある物質と物質の、威力をつけてのぶつかり合い。
この巨体だと拍手とはいえ先に自分の手が壊れそうなものだが、スノーマンの堅さが自壊を防いでいる。
だからこその破壊力であり、だからこその衝撃波であった。
「ゲイナー!!」
踏みつけられているグフ・カスタムのコクピットで、ノリスが叫ぶ。
「気をつけろ、ゲイナー!
如何に『オーバーマン』とは言え、奴の攻撃を喰らってはひとたまりも無いぞ!」
「そんなの言われなくたって!」
叫びながら、キングゲイナーの体勢を立て直そうとする。
その瞬間だ。
吹きすさぶ風の神が舞い降りた。
風塵の息吹が、目に見えぬ闇の慟哭となってキングゲイナーを飲み込んだ。
キングゲイナーの動きが鈍った。
大きな負荷がキングゲイナー全域に圧し掛かり、そのまま空中で押し流される。
「な!?」
吹きすさぶ風の神こと、スノーマン後方2本腕から放たれる『風』によって、キングゲイナーが吹き飛ばされたのだ。
待ち構えるように再び手を広げるスノーマン。
言わなくても分かる。叩くつもりだ。蚊か何かを叩くように。
思うように身動きが取れぬまま、キングゲイナーはスノーマンの胸の前に放り出される。
「はっははははは!」
上機嫌な声で孟獲が哄笑をあげた。
もう勝者になった気分なのだろう、余裕の表情でスノーマンを指差す。
「さあ、スノーマン。その『オーバーマン』を潰せ!
蚊かハエみたいにな!」
「……オーバーマン……」
瞬間。
たなびく白髪から、七色に輝く輪が無数に出現した。
キングゲイナーを包み込んだ風牙が虹となって弾き返えされる。
「オーバーマン……オーバーマンって!」
フォトンマット……オーバーマンから溢れる、可視出来るエネルギー。
特にリング状になっているフォトンマットは、『フォトンマットリング』と呼ばれる。
それが今、放たれた。
「このオーバーマンにだって、『キングゲイナー』って名前があるんだ!!」
スノーマンに向かって!!
次々に激突するフォトンマットリングは砕け、細かい粒子となって消滅する。
キングゲイナーの髪から溢れるフォトンマットリングは留まることを知らず、次々に作り出される。
その姿はまさに悪鬼羅刹。
スノーマンはここにきて、初めてよろめいた。
グフ・カスタムを踏んでいた足が、僅かに浮き上がる。
「今だ!」
ほんの小さな隙を、ノリスは見逃さなかった。
鈍い音を立ててサイクロップスの瞳たるモノ・アイが輝き、グフ・カスタムがスノーマンの足を掴む。
ここに来てもスノーマンのAIは、先ほどの命令を実行しようとした。
つまり『オーバーマンを潰せ!』を。
バランスを崩しているのもお構いなしに、スノーマンが腕を振りぬくため動きを止める。
キングゲイナーが蹴り出されたような勢いで上空へと飛び立った。
全力疾走だ。
そのため、スノーマンはキングゲイナーを追おうとしてさらに体勢を崩す。
そこにグフ・カスタムの一撃が加わった!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
立ち上がりながら、二倍以上の体躯であるスノーマンの片足を持ち上げた。
巨体が軽く浮き上がり、阿修羅の腕は手を叩きながらに雪の大地に背を激突させる。
そして、自らの拍手から発生する衝撃波で、自ら雪の中に埋もれさせた。
「ば、馬鹿な!?」
孟獲が目を剥いた。
偶然に偶然が重なったとはいえ、彼にしてみればあまりにあまりな展開だった。
モビルスーツは、『スーパーロボット』と呼ばれる特機に比べて貧弱というイメージがある。
だが、グフ・カスタムは意外にもパワーのある機体なのだ。
近い未来、連邦軍の陸戦ガンダムを相手に、グフ・カスタムは高速道路を持ち上げながら、こう叫ぶことだろう。
『怯えろ! 竦め! 機体の性能を生かせぬまま、死んでゆけ!』
と。
孟獲は舌打ちする。
旗色が悪い、違う命令を下さねば。
このままでは、ただの遊びのつもりが、火遊び……しかも、家が焼ける遊びになってしまう。
ついでに言うと火災保険は入っていない。
「おい、スノーマン!」
孟獲がスノーマンに向かって、何か言葉を発しようとした。
阻むように、後方から声が響く。
『Thank you!』『Ha!』『heavy machine gun!』
思わず顔を向ける孟獲の視界に、フィオが映し出されていた。
いつ携えたのか、その手にはマシンガンが握られている。
「……な、に?」
どこからそんなマシンガンを取り出したのか?
しかもヘビーマシンガンと呼ばれる、大きいサイズのものを。
というか、さっきの声は何?
孟獲の頭の中に、そんな疑問が過ぎる。
それらの疑問に答える者はいない。
そして、答えを考える暇は無い。
「やぁぁぁぁ!!」
フィオが声を上げながら、ヘビーマシンガンを放つ。
孟獲はまたしても舌打ちすると、藤甲盾で弾丸を弾く。
如何に、BF団幹部が超人的肉体を持とうとも、銃弾を受けることは危険だ。
後方で倒れているスノーマンにキングゲイナーとグフ・カスタムが、集中攻撃を浴びせさせている。
焦りと苛立ちが沸き上がる中、それでも彼は命令を下すより先に前に、マシンガンを何とかすることへと思考を切り替えた。
それは、マシンガンを防がねば危ないということを差し引いても、フィオを甘く見すぎていたことによる。
逆に言えば、それだけ藤甲盾を使った自分自身に自信があるということでもあったのだが……。
「無駄だ、女! そんな武装ごときで……」
フィオの方も弾かれると見るや、マシンガンを打ち続けながらもジリジリと後退する。
と、フィオは、ぴんっ! と棒に黒い筒がついたものから、紐を引き抜く。
それを孟獲に向かって投げつける。
「っ!」
孟獲が軽く息を呑んだ。
フィオが投げたもの……言うまでなく手榴弾だ。
スパローズ隊で使用されている、ピンを抜くタイプではなく、摩擦発火方式のものだ。
有名な『パイナップル』型の手榴弾の場合は、ピンを引き抜くことで発火・爆発させる。
一方で、この棍棒のような摩擦発火方式手榴弾は、紐を引っ張ることでライターに火をつけるのと同じ方式で発火・爆発させるのだ。
もっとも……孟獲にとっては、そんなことはどうでもよく、重要なのは手榴弾をどう防ぐか、である。
即座に駆け出す。
一気に距離を詰めた。
フィオではない、投げつけられた手榴弾に向かって。
そのまま、あろうことか藤甲盾で殴りつけた!
轟音が鳴ると同時、孟獲の手に振動が伝わる。
孟獲の肉体が優れていたのか、それとも藤甲盾が強硬だったのか、ともあれ孟獲は傷を負わずに弾き返したのだ。
視界が手榴弾の爆煙で遮られる。
「てい、てい、てい」
煙の向こうからフィオの声が聞こえる。
……何をしている?
疑問が頭を過ぎる。
視界が開けるまで待つか。それとも、煙を無視して攻めるか。
煙が開けるのは1秒にも満たない。
その1秒よりもさらに短い時間で、孟獲は選択を決めた。
踏みとどまり、盾と剣を構えつつ煙が開けるのを待つ。
焦ることは無い。
自分は藤甲盾があるのだ。
これを破ったのは、策士諸葛孔明しかいない。
さあ、来い女!
爆煙が消えると同時。
手榴弾が10個ほど飛んできた。
「ぬわああ!!」
孟獲は思わず、声を上げた。
藤甲盾でも10個の手榴弾は防げないだろう、とか、そんな思考は二の次だった。
思わず、最初に、後方へと飛び跳ねてしまったのだ。
全力でバックステップしたのだろう。一瞬の行動だったにも関わらず、息が荒い。
周囲に黒い煙が舞い上がる。
この煙も、時間にして1秒にも満たない時間で消えるだろう。
だが――その時だった。
ふと、嫌な予感がした。
爆煙の向こう……眼前から、強烈な気配が近寄る。
何だ……?
何がいる……?
孟獲の視点が一点に凝縮された。
唐突に、煙をつきぬけ、巨大な砲身が現れた。
いや――巨大な砲身を胸に着けたロボットだ。
「げえっ!」
『SVR―001』。
通称。
スラグガンナー。
「えぇ〜い!!」
フィオの声と共に、スラグガンナーが火を噴いた。
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