スーパーロボット大戦
スノーマウンテン

最終話


「それで、直りそうですかぁ?」
「うむ、もう少し待てぃ」

 フィオに急かされて、ワルモン博士は大破した……正確には自爆した……スラグガンナーを修理していた。
 太陽が沈み深遠覗く雪山で、手馴れたようにスパナ片手に作業をこなしていた。

「よし……完成と」

 やがて、そこに一体の……

「って、何故ワシが修理せねばならんのだ――――!?
 しかも全然気づかずに! ごく自然に! ナチュラルに!」

 と、ワルモン博士は手にしたスパナを足元に叩き付けた。
 顔をタコのごとく真っ赤にし、足が雪に沈むほど地団駄を踏む。
 物凄く悔しそうである。

「あのー……ワルモン博士ぇ」
「なんだあ!?」

 フィオに声をかけられたワルモン博士は、鼻息荒く振り向く。
 相変わらずのほほんとした声で、しかしどこか不思議そうな顔でフィオは修理が完成したロボットを指差していた。

「どうして、スラグガンナーを修理して、スラグノイドになるんでしょうかぁ?」

 スラグノイド。
 むき出しのコクピット、股間部にキャノン砲、腕の代わりにバルカン、そしてガニマタの二本足のロボット。
 真っ直ぐに歩けずに、移動はカニ歩きとジャンプというちょっと風変わりの機体である。

「自爆したものを物資が無くて元通りに直せるわけがないだろうがぁ!」

 憤慨するワルモン博士。
 それでも、一つの機体がまったく別の機体に直るのは、それはそれで凄いことかもしれない。

「そんなことより」

 二人のやり取りを、ただ黙って見ていたゲイナーが口を開く。

「光さんはどこにいったんだ?」



 焼け死ぬかと思った。
 突然出現した謎のロボットの攻撃は、スノーマンを圧倒的で壮絶で壮大で絶望的で狂神的な一撃により灰燼と化した。
 その場にいた自分もそれに巻き込まれるはずだった。
 気分的には、盤蛇谷に誘い込まれ火刑にあった兀突骨である。

「助かった……のか?」

 孟獲は呆然とした声を思わず絞り出していた。

「……まったく、大の男が情けないよ!」

 女の声が頭の上に振ってきた。
 孟獲は、その時、初めて自分が置かれている状況に気づいた。
 服装は所々焼け焦げているリクルートスーツ。
 そのスーツの襟首をつかまれて、宙ぶらりんになっている。
 そのまま、持ち上げられ、強引に顔を向けさせられた。
 そこにいた女の姿に、孟獲は叫びそうになった。

「しゅ……祝融!?」

 祝融……孟獲の妻である。

「あんた、危うく死ぬところだったのよ。何やってんのよ!」
「うぐぐ……すまぬ」

 孟獲は素直に反省した。
 妻にだけは頭が上がらないのである。

「まあ……孔明様は、今回は良くやったって褒めてたよ」
「そ、そうか。それは幸いだった」

 実はスノーマンを破壊されて作戦失敗だと思っていた孟獲であった。
 何はともあれ、目的は果たした。
 後は去るだけである。
 次の瞬間には、猛スピードで消え去っていた。



「まるで夢見たいな出来事ですぅ」

 天に昇った満月を見つめながら、スラグノイドに乗ったフィオは夢見がちに呟いた。
 敵対しているはずのジオンと連邦、それにエクソダスの人間と正義の味方が共に闘った。
 加えて、突如現れた謎の少女。
 少女は迷走している彼らを導き、目的を遮る敵を排除し、そして消えていった。
 この雪山も、明日には溶け、蒸発するだろう。
 全ては何事もなく消えていく。
 まるで一夜の夢のごとく。

「夢なもんか」

 呟いたのはゲイナー。
 付け加えたのはワルモン博士。

「そのとーーり! 全部現実だわい!
 壊れた貴様等のロボット! そして、ワシのスーパーカチコチ君!
 うおー、何たることだ!」

 月夜に男泣きしている。
 見ていたライトとツインビーは、ほぼ同じ動作で、首を振る。

「あちゃー、こりゃ駄目だビー。すっかり自分の世界に入っちゃっているビー」
「まったくぜ」
「五月蝿いわい、小僧ども!」

 地団駄を踏みながら、叫ぶワルモン博士。
 博士はそのまま矛先を向けるとばかりに、フィオとゲイナー、ノリスを指差す。

「大体お前等、現実なんだから、また敵同士になったらどうだ!」
「……なんで、そんな言い方するんですか!?」

 そのほとんど言い掛かりでしかない物言いに、ゲイナーが怒気を含んだ声を上げる。
 一方でフィオはきょんとした顔を見せ、ノリスは……ふっと笑った。

「そうかもな……確かに敵同士だ」
「ノリスさん!?」

 信じられないっと言った風にゲイナーは振り向いた。
 ノリスは笑っていた。彼にしては珍しく、イタズラっぽい顔だった。しかも、どこか快い雰囲気がある。
 フィオは相変わらずのんびりとした顔で、再び月を見上げた。優しく柔和な顔。

「でもぉ、今夜だけは夢のままで終わらせましょぅ。
 一夜だけの雪山の物語でぇ」
「フハハハハハ! 確かに! 私もそれがいい!」

 フィオの言葉に、ノリスは哄笑を上げる。
 呆気に取られていたのはゲイナーで、ライト達の方へ振り向くと、そこにニヤニヤと笑っている少年とズングリムックリなロボットが一体。
 ゲイナーは一瞬、不機嫌そうな顔をしたが、すぐに苦笑した。

 次の瞬間、全員が顔を上げた。

 空から、桜の葉が舞い降りてきたからだ。
 桃色の葉は、緩やかに優雅に穏やかに舞い踊り、舞い降り、舞い散る。
 桜吹雪。
 深夜の雪山であるにも関わらず、辺りは美しく明るく輝く薄紅に染まる。
 いや……良く見れば、それは桜の葉の形を模した『炎』であった。
 だが、不思議と熱くは無い。
 それはとても幻想的で幻惑的で神秘的な光景だった。

 フィオは思わず手を出して、葉の一枚を受け取った。

『ありがとう』

 それは確かに聞えた。
 少女の声で。
 獅堂光の声で。

 そして、それはその場にいた全員が聞いていたようであった。

「一夜だけの夢物語。それでいいじゃないですかぁ」

 フィオは微笑んだ。





 運命は廻る。輪廻は回る。

「アイナ様! ご無事でしたか!」

 今までも廻り、これからも巡る。

「わははははは! 今日こそ貴様を倒すぞ、ツインビー!」
「相変わらずだな! ワルモン博士!」
「今回も楽勝で勝つビー!」

 幾千の星の光の中、やがて紡ぎだされる。

「大丈夫です。平気ですぅ」

 偶然と必然と奇跡を折り曲げて、織り交ぜ、やがて生まれるストーリー。

「オーバーヒート!」

 それはジオンの戦略図より遠く離れた北の地での物語。

「地球の意思……レイアース!」

 一夜だけの夢物語。





 スーパーロボット大戦赤
 ―完―


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