ルリルダイアリー

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【198・不意打ち】

「見てみて」
ルリルが嬉しそうに見せたのが、ぬいぐるみだった。だらんとしていて、例えるなら太陽の下に
置いてあるバターのようにとろんとしている猫だ。怠そうにしている猫である。
「どうしたんだ、これ」
「作ったの」
幸せそうにルリルはぬいぐるみを抱きしめている。ぬいぐるみを見て俺はあることに気付き、聞いてみた。
「名前を付けたのか?」
彼女は捨て猫なんかを拾ってきては育てているのだが、一匹一匹にきちんと名前を付けている。
ぬいぐるみにも名前を付けたらしい。どんな名前を付けたのだろうか。
「むーたん」
その一言が、俺の回りの空気を絶対零度まで落とした。
それによく似た呼び方で呼ばれている相手を知っているからだ。その人物というのは、俺を目の敵にしていて
……原因は俺にあるんだが……それでいてカルシウムが絶対的に不足している人物だからだ。
「ル、ルリル……何でそうなんだ?」
おそるおそる聞いてみると、ルリルは微笑をしながら、それこそ年齢相応の笑顔を見せた。
「あのね、むーちゃんが買ってくれたの」
俺はその言葉が信じられなかった。
むーちゃん、そう俺がアイツを呼ぶためには万全の準備をしなければならないし、呼ぶ気なんてそれ以前にないのだが
あの屯雲がぬいぐるみを買ってやったというのが、信じられない。地球は平らだったんだというのを信じた方が実は楽なぐらいだ。
ズレ落ちかける眼鏡を上げて、俺はもう一度聞いてみることにした。
「本当にあの屯雲が買ってくれたんだな……それ」
「ユディ、何でそんなに念押しで聞いてるの?」
「……何でって言われてもな」
「優しいよ。すっごく」
俺はこの時、ディヴァインのデストロイド・ギアよりも、ヘルレイオスのマインド・クラッシュよりも、ギルティの切り刻み寄りも
教授の雷連続落としよりも、それこそ、ありとあらゆる強力すぎる喰らったことはないが威力は想像出来る攻撃よりも
ダメージを喰らった。恐らくはそういえるのはこの世界の何処を探してもルリル・スーラシー以外には居ないのだろうが
或いは居るのかも知れないが、天然記念物並みでワシントン条約で保護されても良いだろう。
そのダメージがから回復した時、ルリルの姿は消えていたりしたが、俺がショックを受けている間に去ったらしい。

「私が話したら何かユディが凍っちゃったんだ」
ユディラスが凍り付いていた頃、ルリルは人形を買ってくれた人物を見つけてそっちの方に行っていた。
「……イラつく」
その本人は口癖のように言う台詞をいつものように口癖に呟いた。
「悪いこと言った?」
反射的にそれを聞くと不安そうにするらしい。舌打ちをして
「ラルシャがシュークリーム作ったって言ってた」
「食べに行こう」
シュークリームと聞いて機嫌を良くしたのか、先ほどのことは忘れてしまったらしい。
ラルシャの……実はさりげなく戦闘員を薬の実験台にしている……シュークリームを食べに向かった。
そしてユディラスはショックからようやく立ち直ると、頭痛を堪えるように額に手を当てた。


【Fin】


 


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