それが何か

22


「あ゛――――・・・・・」
いつもより老け顔でいつもより青白い顔の畑守を見て、
パイロットは気が気でならなかった。
「・・・・あ・・あんた・・・大丈夫か?」
「ああ゛―――――・・・・・・・」
誰がどう見ても大丈夫じゃなかった。
「なんでこんな物にのっちまったんだ・・・・・・」
畑守は、自分がとんでもなく乗り物酔いに弱いと言う事実を忘れていた。


緋龍の顔を見て、野沢はすぐに自分の顔を、いつものしょぼい政治家に戻した。
「緋龍くんか・・・・なんのようかね?」
野沢の心にあった少なからずの警戒心がムクムクと大きくなった。
この男は危険である。第六感がそう告げていた。
「昨日、警備部の部長さんに呼ばれて、ここに来る事を命じられたッス。」
野沢も承知の事だった。
もはや、捜査部から警備部への管轄になっているこの事件で、
唯一の捜査部からの使者が緋龍と畑守だった。
「その時に、なんと内閣調査室の方がいたッス。
 驚いたッスよー・・・・」
「調査室!?」


内閣調査室。
内閣と首相の直属の諜報機関であるその組織は、
公安委員会とつながりを持った、すさまじい情報力を持つ機関だ。
そして野沢が最も恐れていた名だ。


「その人の話だと、なんでもこの機に乗じて自衛隊とかのOB連中とか、
 幕僚たちが、自衛隊の増強をしていると言う話しじゃないッスか!」
野沢は、じりじりと後ろに下がった。
「さらに、それにいろいろ汚職が絡んじゃったりして、」
自信はあった。奇襲なのだ、オマケに相手は単なる一刑事。
「あの怪物も隠匿して、そのまま自分達の物にしちゃおうという計画もあったりして、」
一発だ。飛びついて殴って逃げる。それで今度こそかたがつくはずだった。
「いやあ、これはもうすごい凶悪犯罪ッスね!」

「がああああっ!!」
形容しがたい叫び声をあげつつ、野沢は緋龍に突進した。
だが、すぐさま、自分の眉間に影を感じた。
手錠だった。
「ぐああっ!!」
眉間に力いっぱい手錠のカドが直撃して、野沢はどてっと倒れた。
「現逮ッス。」
のた打ち回る野沢の手首に、戒めがしっかりとかけられた。
「最後に何かいうことはあるッスか?」
上から見下す形で、緋龍はぴしゃりと言った。
あえぎながらも、野沢は力強くこたえた。
「わ・・私が本当にこの国を想っていたのだ・・
 被害者には気の毒かと思うが、見ろ!米軍、RJH、ガイア!
 みんながこの国を狙っている!」
緋龍は、野沢を無理やり立たせた。
「この国はいつか必ず終戦直後の姿に戻る、私はそれを防ごうとしたのだ!」
自衛官たちに取り押さえられ、野沢は緋龍と畑守が乗ってきたパトカーに入れられた。
緋龍は、しれっと答えた。

「そんなこと、誰にも分かるはずが無いッス。」

呻く畑守に、パイロットは露骨に嫌な顔を見せた。
「ぢぐじょう・・・・は・・はきそうだ・・・・・・」
「頼むよ、ここじゃ吐かないでくれよお。」
半ば必死だった。
だが、それを嘲笑うかのように、ヘリコプターがグラりと揺れた。
ひざを丸める畑守。怖がるパイロット。
再びぐらりと揺れる。
「あわわわ・・な、なんで揺れるんだ!?」
パイロットの空しい叫びにこたえるかのように、再びヘリコプターに巨大な揺れがして、



かすかな唸り声が聞こえ始めた。


 


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