それが何か

24


誰が想像できた?この豪炎と土煙、そして大混乱を。
誰が想像できた?・・・誰にもできはしなかった。当事者たちすらも。
この、燃え盛る鋼鉄の中でうごめく、恐怖を、

誰が想像できた?


畑守が強烈な嘔吐感とともに目覚めたとき、自分がどこにいるのか分からなかった。
なにやら足元が熱く、体はきつい。
思い切って渾身の力を込めて立ち上がってみると、背中から焼け爛れた鉄板が落ちた。
どうやら、炎上したヘリコプターのコックピット内で下敷きになっていたらしい。
隣で同じように卒倒していた自衛官を引きずり出し、真正面を見た。

噴水が見えた。

左を見た。遠くに五重塔が見えた。

右を見た。

美術館とかが立ち並んでいた。

後ろを見た。

何かデカイ物がはいずりまわって移動した後があった。

冷や汗がたれた。


『上野公園に墜落したヘリコプターの内部で暴れていたとされるテロリストは、
 現在、散らばって園内に潜伏中とのことで、先ほど機動隊が園内を封鎖しました。
 まもなく、陸上自衛隊がこちらに向かうもようです。』

『現在、上野駅は運休を見合わせており、職員や乗車客の早急な避難が行われています。
 
『陸上自衛隊の第一師団一個小隊が、こちらに向かっており・・・・』



「畜生・・・!!」
景気よく畑守は毒づいた。
こんなことなら常日頃、鉄砲かミサイルの一発や二発携帯しておくべきだった。
「畜生・・畜生・・・・!!」
丸腰でどうしろと言うんだ。
「おい・・・いったいどうなってるんだ
「だまれっ!!」
いまだに状況が呑み込めていないパイロットを、鍛え抜かれた叱声で黙らし、
畑守はさらに考えた。
「あのバケモノとどうやりあう・・・・・・」

『内閣はこの件について・・・・』
『宮内庁では天皇、皇后ならびに皇太子ご夫妻の緊急避難も視野にいれ・・
『公安委員会が・・・
『陸自の・・・・
『先ほど、上野公園に向かって、年齢不詳の男性が機動隊の制止を振り切り、侵入したとの・・・・


無数の電波が飛び交うこの都市。
あと三時間で日も暮れる。

事件関係者にとってもっとも長い夕暮れ時が端を開けた。


 


第25話に進む
第23話に戻る
図書館に戻る