それが何か

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『現在、自衛隊によって完全封鎖された上野公園の周辺には、
 野次馬や報道陣で黒山の人だかりができています!
 かく言う私も・・うわあっ!』
『早瀬さん、大丈夫ですかー?』

『上野公園には、重要文化財や政府の施設が多々あることも、関係者の頭を痛ませており・・・』

『先ほど、東京湾岸で作戦行動に当たっていました、
 陸上自衛隊第一師団第二機械化中隊が、上野公園に向かっております。
 この移動に伴い、近隣道路では交通規制が行われて・・・


人々は、その一群を遠巻きに見ていた。
街道のど真ん中を堂々と走る、装甲車、軽戦車、指揮車。
黒々とした鋼鉄の内側で、何が行われているか知らず、
日常と言う中にいきなり飛び出してきた『兵器』と言う名のファンタジーを、
まるで見送るかのように眺めている。
そこからかなり離れた所のオーロラビジョンにまで次々と映し出されるその兵器群は、
東京湾封鎖に向かっていたときよりも、ずっと現実的であり、
それ故に非現実的だった。
その非現実的なものが、これから『怪物』というさらに非現実を叩きに行くと知ったら、
彼らはどういった反応を見せたであろうか?
装甲ジープの窓から、暁に照らされる群集を見て、緋龍は思った。

数十分前。

緋龍もまた、群集と同じ現実の中にいた。
突然の陸幕僚長からの命令により、怪物を殲滅すべく、
びびりまくりの葉護崎を先頭に、上野公園に向かい出したころ、緋龍はこの非現実へと引きずり出された。


今度こそあの怪物は殺される。
それも市街地の真ん中で・・・・・・・
これにより世論がどう言うか、緋龍には想像もできない。
都市部での銃撃戦とは、アメリカも真っ青な行為だ。
それで、何が起こるのか予想もつかない、反発が起こるか・・当然の処置と受け流されるか・・

なんにせよ、今は畑守が心配だった。
「・・・・・・畑さん、食われないでいてくださいッス・・・」
こんなときに、無性に彼女の顔が見たくなり、
さらにやたら甘い紅茶が飲みたくなっている自分に気付き、
緋龍は、苦笑した。



畑守は、男子トイレに駆け込んだ。
パイロットくんをひきずりながら。
あの生き物の体色が次第に黒く変色していっている。
夜に体を合わせるように進化したんだろう。
「・・・・・・」
やつの周りに散らばる無数のカラスの羽を見て、畑守は思わず言った。

「当分、肉が食えねえな、こりゃ」


 


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