それが何か

最終話


『夜のニュースです。
 先ほど、岩島内閣官房長官は、
 東京湾近辺に潜伏し、護送中に航空自衛隊のヘリ内部で暴動を起こし、
 上野公園で自衛隊と交戦状態にあったテロリストは、
 陸上自衛隊第一師団の一部部隊の圧倒的な火力によって、
 完全に沈黙、捕縛されたと正式に発表しました。

 今回の首都圏内部への自衛隊の出動について、
 官房長官は、
 「近隣住民や要人の身辺を案じての当然の措置だったが、
  確かに危険な行為であった。
  この場を借りて、深く謝罪したい。」
 とのコメントをしています。

 今回の事件は、都内での戦争行為に等しいとの見解もありますが、
 内閣は、あれは有事ではなかったとのコメントを出しています。

 米のアルコム大統領は、
 「これを機に、日本も対テロリストとの政治を、
  積極的に望むようになり、
  さらに大規模テロへの危機感を強める事を切に望む」
 とのコメントをなしています。
 米国は、前大統領のテロリストとの癒着事件や、
 先日の独立記念日テロ事件などにより、
 テロに対する危機感を強めており・・・・・・・・・・


 ガイア共和国政府は、
 「日本政府が全ての真実を国民に明かした体制を、大きく支持する。」
 と―――』



「とんでもない皮肉だな。」
畑守は、上野公園内に立てられた病棟テントの中で足にギブスをつけて寝ていた。
ラジオのチューニングを変えて、こんな嘘だらけのニュース番組ではなく、
普通の音楽番組を探す。
「そうッスね。」
傍らの緋龍がいつもの表情で言った。
「テロリストの存在そのものが嘘・・・・・・
 ガイアやアメリカも気付いているんだろうが・・おくびにも出さない。
 つくづく、政治家さんは怖いなあ・・・」


死傷者多数。
破壊された樹木や、建造物、車両多数。
存在しないテロリスト、その代わりに巨大な怪物の骸。

その骸も、さっき解体されてどこぞへ運ばれていった。
RJHのトラックが運んでいったのだが、
どこかは、緋龍も、畑守も知らない。


「警視総監が、おまえさんに褒章をくれるとさ。
 今から来るってさっき電話で言っていたよ。」
「知ってるッス。」

その緋龍は、なにやらそわそわしている。
しきりに、胸ポケットの携帯電話を意識している。
畑守は、軽く笑った。

「行って来い。」
「ほえッス?」

胃に染みる演歌が流れてきたのを確かめ、畑守はチューニングを止めた。

「俺が適当にごまかしておいてやるから、行って来い、デート。」
「な・・・なんで知ってるッス?」

「夜前に事件は終わると見越して、今夜デートの約束しただろ?
 だいたい分かる。」
「た・・たははは・・・・・ッス。」

事件の後を、彼女と過ごす。
そのたくましさが、若さが、畑守には羨ましく思えた。

「ん・・んじゃー・・お言葉に甘えて・・行って来るッス!」
「ただし。」


「今度の署の打ち上げ飲み会、逃げるなよ!?」
畑守は心の底から意地悪くにかっ!と笑った。

「了解ッス。」
苦笑しつつも、緋龍は敬礼で応じた。
「マスコミにひっかかるなよー!」
畑守の言葉を背に受け止め、そのまま、ダッシュでテントから飛び出た。



そこから先には、ネオンや電球といった人工の星たちで埋め尽くされた、
東京が広がっていた。



なにがこの街に起こったのか。
何故この都市にあんな事があったのか。
それがなんだったのか?
目の前にあるもの・・・
無限に広がっているかのように見えるもの・・・
目に見えない危機。
これから起こりうる出来事。
あらゆる、あらゆる事件。


それが何か 知る?知らない?知っている?




 END


 


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