Summer in Gaia〜ヤツらの夏〜
最終話
| 「THE ADAM SHOW」 THE END アダム・ワイルダーは上機嫌だった。 「どうだチャック!私は決して諦めなかった!最後まで戦い抜いた! 私はこんなに強かったんだよ!」 顔を腫らしながらもその表情はすがすがしかった。 「うんうん、でもあんな女の子に勝っても何の自慢にもならないよ」 「何言ってんだ!ありゃそこいらのプロレスラーよりよっぽど強かったぞ!」 「いやアダム、絵的に見てさ、頭に血昇らせて女の子と 殴りあう光景はあまりカッコよくないと思うんだ‥‥」 「うむ、そうか‥‥」 思案するアダム。 「‥‥あの子、総集編の時はCGで超人ハルクみたいにするか?」 「なんてこと考えるんだ。そういえばあの子は?」 「ああ、保護者が来て、引き取って行ったよ‥‥」 結果からいうと、今日のアダムショーの出来事は、あまり話題になることはなかった。 米大統領のミッシングウェポンに関するスキャンダル。 大々的に報道特別番組も組まれたその大ニュースによって、その珍騒動は すぐに人々の記憶の彼方へと消え去った。 「‥‥‥‥。」 ぬくもりを、感じる。 ほほに感じるそれは、あの時と同じく‥‥ 「‥‥‥‥。」 目を覚ましたミューが見たのは、大きな背中だった。 漆黒の生地から、ミューの体に、ぬくもりが伝わる。 自分は、背負ってもらっている事に気づいた。 「ゴードン様‥‥」 ‥‥満たされた。 わけのわからないアメ公には負けたけど、ミューは満足した。 その頬がほんのりと紅く染まる。 「あの‥‥‥‥重くないですか?」 「いえ全然、これくらいどうってことないですよ☆」 「え?」 自分を背負ってくれてたのはグラス兄者だった。 「おお、どうやら」「お目覚めのようですね」 横にレッドグラスもついて歩いていた。 「〜〜〜〜!! まぎらわしいんだよーッ!!てめえの背中なんぞにトキめいちまった アタシの立場はどうなるんだよォ! 乙女の幻想踏みにじってんじゃねぇぞー!!」 非情のスリーパーホールドが兄者をシメあげる。 ついでに脚で胴も締め上げ、効果を倍増させる。 「ぐええええミュー様オチるッ!オチるッ!」 「‥‥で、ゴードン様はいずこへッ!?」 兄者に背負われながらミューが吼える。 「あ、あれから早々に帰っていただいたに」「決まってるでしょう」 「え、えー!?」 「あれだけ騒ぎ引き起こしといて」「その上もし大統領閣下の正体がバレでもしたら えらい事ですよ」 「た、確かに‥‥うぅ‥‥アタシって、愛されてないのかしら‥‥」 「それはそうとミュー様、目が覚めたのならさっさと降りてくださいよ」 「んー、やだ。アタシ、お昼牛丼一杯しか食べてないのよ。もう一歩も動けない」 「さっきムチャクチャ元気だったじゃないすかぁ‥‥!」 「そうそうミュー様、愛といえば‥‥」 レッドグラスが言った。 「アダムからミュー様に伝言が‥‥」 「ん?なんて?」 とたんにブラックグラスが満面の笑みを浮かべる。 「そうそう!ミュー様引き取る時にアダム・ワイルダーに会えたんですよお! サインももらったし、いやぁ今日はホント外に出てきてよかっ‥‥」 ミューがその両耳にパームボンバーをかます。 「〜〜〜〜!‥‥!‥‥!」 両膝をつく兄者。 「おら、さっさと立ってキビキビ歩け。で、アダムがなんだって?」 「は、はい‥‥彼がいうには‥‥」 『今日の私の勝因はズバリ「愛」。そして君の敗因もズバリ「愛」だ』 『愛されたいのなら、愛しようよ。 愛は惜しみなく与えるもの。君が「与える愛」を知った時、きっと より魅力的な女性になることだろう』 『自分は愛されてないなんて思ってはいけない。 本当は愛されてるのにそれに気づいてないだけなんだ。 君を愛してくれてる人は、案外身近にいるかもYO?』(ゲッツ) 「ヘッ、知ったふうなこと言いやがって‥‥ それはそうと、あの番組、生放送されてたんだよな。 もしアタシがガーデンの警備員だってことがバレたら ゴードン様に迷惑がかかるかも‥‥!」 「ああ、その点は」「ご安心を」 「我らが適当に」「ごまかしておきましたゆえ」 ひと気のひいたビジネスパーク。 解体されていくステージを遠い目で見るアダム。 「またいつか‥‥あの子に会いたいものだ‥‥」 青い顔のチャールズ。 「‥‥マジ?」 両手でパチパチ指を鳴らすアダム。 「うんマジ。今度は合衆国本土でゴールデンの時間帯で争ってみたいものだ」 「カンベンしてくれよアダムゥゥ!」 「女子プロレス界のトップヒール『コロネ・ザ・デビル』か‥‥ 彼女はきっとブレイクするよ‥‥!」 時刻はまだ昼を過ぎたばかり。 ヘブンズヒルの街を、爽やかな陽気がさしていた。 「Summer in Gaia」・完 |
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