『アンノウン・キング』
1
(雑誌『アナザーゲート』より)
『目撃者多数! トゥーマッチタウンの亡霊』
8月31日 午後11時
当地を訪れていたニューヨーク在住の男性が、車を運転している最中に、曲がり角からじっとこちらを見つめる人影を目撃。人影は曲がり角を曲がる直前までそこにいたが、姿がはっきりせず、車が右折した瞬間に跡形もなく消え去った。
9月12日 午前2時
妻と口論になり外へ出た当地区在住の男性が目撃。玄関の前で座り、タバコを吸っていると、通りを人が歩く音が聞こえた。道を覗いてみると誰もいなかったが、足音は5分ほど続いた。
10月16日 午前2時
当地区在住の12歳の少女が、四階の窓から外を眺めていると、ビルの屋上に人影が見え、ビルからビルへ浮かぶようにして移るのを見た。その建物の高さは20メートル前後。飛び移ったとされるビルとビルの間は8メートルはあるという。
12月22日 午前1時
ニュージャージー州に住む日本人の男性が車を運転していると、目の前に人影(男のように見えたという)が通り過ぎた。運転していた男性は轢いてしまったと確信し、車を止めたが、そこには人の倒れている姿はなく、自分が轢いたと思ったのは幽霊だったのではと話している。
昨年8月から現在にいたるまで、トゥーマッチタウンでは正体不明の人影の目撃証言が相次いでいる。上に挙げた4件はその一部に過ぎない。その証言はじっとこちらを凝視していたというものから、ビルからビルへ飛び移ったという信じがたい話のものまで様々である。幽霊説、異星人説といったたくさんの推測が飛び交っているが、未だその正体は解明されていない。唯一分かっていることは、人影が正体不明であるということだけだ。(中略)トゥーマッチタウン・ゴーストは、いまも徘徊しているに違いない。彼(目撃した人のほとんどがその人影を「男だった」と証言している)は一体何を求めているのか?この世に何か未練でもあるのだろうか?神のいる天国へ昇れないわけでもあるのだろうか?あるいは彼は地球を侵略するために異星人が送り込んだアンドロイドなのか?我々、生ける者にとって、世界にはまだまだ分からないことが多すぎるようである。本誌では、彼の新たな目撃証言を心待ちにしている。(編集部)
―――……
はじまりはいつも突然訪れる。
今まで何とも思っていなかったことが急に重要な意味を持ち、
記憶の底に埋もれていた死者たちが呻き声をあげはじめる。
大切なことは彼らの声に耳を傾けることだ。
そして、彼らに返事を与えることだ。
| 第2話に進む |
| 図書館に戻る |