REPTILE2
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| レプタイルが跳んだ。 今までキルマーと死闘を繰り広げていたこの男は、老人から何の躊躇もなく目を逸らし、突如現れたゴードンを襲ったのだった。 高く跳び上がり、目標の首を狙って蹴りかかる。。 骨を折るつもりで、足を振るった。 だが、ゴードンは、手を“払う”だけでレプタイルの攻撃を阻止した。 先ほど、キルマーの攻撃をレプタイルがそうしてきたように、素手で捌いていた。 マリンヴィルから、ゴードンがただの政治家でないらしいことは聞いていた、が、これほどとは。 「申し分のない蹴りだ。殺す気できたな」 そう言い、両手をポケットに突っ込み、レプタイルを見据える。 レプタイルは慎重になっていた。 次は成功するかもしれない、とは思わない。 レプタイルの眼が、ゴードンの力をすでに見切っている。 「大統領」 老人が口を開く。 「レプタイルの始末は私にお任せを」 「そのつもりだったのだがな」 ゴードンはレプタイルから目を離さずに言った。 「少し気が変わった」 一歩、ゴードンが歩んだ。 レプタイルが、構えた。 一切の隙がない完璧な構え。 乱れのないその型は、水と風の調和を思わせた。 始末屋に手を染めて以来、久しくしたことのなかった動作。 拳銃も、同業者も、殺し屋も、彼を武術家として本気にさせることはなかった。 しかし、この大統領。 ――強い。 レプタイルは恐れた。 これほどの男を、自分は殺さなくてはならないのか。 レプタイルの拳が消える。 瞬間、ゴードンの目の前を強烈な衝撃が唸った。 「あの拳だ」とキルマーは思った。 第三者としてその拳を見て、大まかな特徴を掴み取る。 拳を超人的な速さで撃ち込む。 すると拳圧というべき瞬間的な圧力が元来の威力を持って、遠く放たれているのだ、とキルマーは見た。 ゴードンが動いた。 キルマーはその得体の知れない技にあって、ダウンを喫してしまった。 だが、目前の主人ゴライアス・ゴードンは、散歩でもするかのように足を踏み出すと、いとも簡単に拳圧を避けている。 「無駄ですぞ」 キルマーは思わず口にした。 「始末屋レプタイル…。キルマーから君の話は聞いている」 立ったまま、ゴードンは言った。 「標的を悪だけに絞る、そういう信条を持っているそうだな」 威圧感。レプタイルは構えたまま、動けない。 「私は“悪”か。レプタイル」 爬虫類の体が若干小さくなって見える。 構えの型から、拳をわずかにずらした。 「おやめください。レプタイル様」 側で、キルマーがいう。 「実際お会いして、お分かりいただけたでしょう。あなたにこの方を殺せない」 「少し静かにしろ。キルマー」 ゴードンが窘め、一歩踏み出す。 レプタイルは攻撃できずにいた。 キルマーの声を聞いたがためかどうかは分からない。 「何が悪で、何が正しいかなどという判断は、神にしかできない」 レプタイルは、知っている。マリンヴィルから聞かされている。 「ラバンダという国を、食い物にしたそうだな」 低い声が響いた。ゴードンが、また一歩歩む。 「それを悪だというのか?」 「ああ」 「では」と、ゴードンが話を変えた。 「40年前のダラス…あれはどうだ」 JFK暗殺のことを指していることはすぐに分かった。 20世紀に起こった数ある出来事の中でも、最大の事件。 「関係ないな」 「ある」 ゴードンは言い切った。 「君に命令を与えている老人があの事件に関わっている」 「ほう」 はじめて聞く話ではあったが、レプタイルは動じなかった。 やはり、関係ない。 自分は与えられた仕事をこなすだけ。与えられた仕事を。 依頼主が例え悪だとしても、目標が悪ならばそれで問題ない。 彼は武器だった。武器が自分を扱う者のことを考えるだろうか。 武器が見るのは、相手だけである。 レプタイルは何か呟いた。 「…なんと、言ったか。よく聞こえなかった」 ゴードンが聰しむ。 「始末する」 ゴードンは鼻で笑った。 「やってみろ」 走った。 |
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