『ANGEL』
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| 「フレッドの住んでいた家へやって頂戴」 「了解しました」 ボスの命令で、クレオが運転するベンツが走り出した。 (あー‥‥すっげえ気まずいなぁ‥‥早く帰りてえなぁ‥‥) ずっとカーマの隣にいた張は災難であった。 大きな体躯にイカつい顔。中華街では強面で通していた彼も、ここでは 借りてきた猫のようにおとなしくしてるしかなかった。 が、ずっと黙ってるのもなんかバツが悪い。 張はおそるおそるカーマに話しかけた。 「あ、あのぉ‥‥」 「?‥‥あらアンタいたの?すっかり忘れてたワ」 「〜〜〜!」 普段の張なら「このボンクラアてめぇが引っ張ってきたんだろがァ!」と つっかかる所だが、今回ばかりは相手が悪い。 相手は『ANGEL』のボス、カーマ・ギア。 もし自分がヘタな応対をすれば『三合会』と『ANGEL』が抗争に 発展するかもしれない。 なによりこのカーマという男、得体が知れない。 張はかなりのプレッシャーを感じていた。 「ン〜張君、ワタシが今何を考えているかわかるかしラ?」 「い、いや、自分にゃあ皆目検討つきません‥‥」 「ヘブンズヒルに迷い込んだ“爬虫類”とね、どう遊ぼうか、って 思案してるのよ‥‥」 陰鬱な張をよそに、当のカーマはゲームでも楽しんでいるかのように喜々としていた。 「レプタイル‥‥‥‥彼はとてつもなく“セクシィ”だワ‥‥」 「セ、セクシィ‥‥ですか」 どうやら彼の言う“セクシィ”とは誉め言葉の様なものらしい。 そして下っ端マフィアの張にも、レプタイルの脅威はさきほど直に見て 理解できた。 銃を持った男達を一蹴したあの腕前。 人間とは、肉体一つであそこまで戦えるものなのか。 「し、しかし‥‥危険すぎやしませんかねぇ‥‥ 俺だったら手を退いちゃいますね‥‥」 「ワタシはガンガンいくワ」 「そ、そうですか‥‥もう娘っ子1人にかまってられなくなりましたね‥‥」 「チッ!チッ!チッ!」 カーマは舌を鳴らした。 「何言ってんのよ。かまうわよ。 レプタイルは思わぬ“メインディッシュ”。 彼女は“デザート”としておいしくいただくわヨ」 「そ、そうですか‥‥(まだあの子殺す気でいるのかよ‥‥)」 張は内心呆れていた。 カーマは依然変わらず、楽しそうに思案している。 「しかし問題は“爬虫類”をどうしとめるか‥‥下っ端のバカどもじゃ 話にならないし‥‥‥‥クレオ」 「‥‥はい」 運転をしていた男が返事をする。 張はこの男の事も、さっきから気になっていた。 口数こそ少ないが、凛としたたたずまい。サンド達とは明らかに格が違う。 カーマではなくこの男がボスでもおかしくないくらいだ。 「少数精鋭。クレオ‥‥あんたの出番よ」 「‥‥‥‥。」 クレオは少考した。 「‥‥私には荷が重過ぎます」 クレオはやんわりと拒否した。正直な気持ちでもあった。 「あんた1人でやれなんて言ってないわ。ワタシ達2人でレプタイルを殺るわヨ」 「‥‥‥‥。」 クレオは考えた。 自分もかなりの修羅場をくぐり、手を汚してきた。様々な敵を蹴落としてきた。 しかしレプタイルは今までの相手とはレベルが違う。かなり危ない橋だ。 ヤバイ。 しかし。カーマ・ギアならあるいは‥‥ 自分達のボスながら唾棄すべき外道だが、この男と組めばあるいは。 「クレオ、我々は何?」 「我々は‥‥‥‥“天使”です」 「そう。天使は‥‥」 「“如何なる相手も恐れない”‥‥」 「そう。今、我々に追い風が吹いてるワ。今動かないのはただの『臆病』だワ」 「‥‥‥‥。」 大事な決断は突然やってくるものだ。 もしレプタイルに打ち勝てばどれだけ名が上がるか知れない。 ひょっとしたら。ひょっとしたら。 あのレプタイルにこの俺がもし勝つ事ができたら‥‥。 「クレオ、あんた‥‥‥‥“爬虫類を殺した男”になりたくな〜い?」 「!‥‥」 クレオは決断した。 |
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