『ANGEL』
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| ミンクコートの男が部屋に入ってきた。 「忘れ物はないかなァ?それじゃ行こう!」 光る金属の手が差し出された。 ロミは喜び勇んでその手につかまり、2人仲良く出かけた‥‥りはもちろんしない。 正体不明の妖しい男を前に、ロミは後ずさった。 逃げたくてもこの部屋の唯一の出入り口は白コートの男が塞いでしまっている。 「どうしたのかなァ〜?おじさんはちっとも怖くなんかないんだよォ〜?」 光るサングラスと、白い歯と、『キャリキャリ』鳴る白銀の両手が迫ってきた。 怖い。すごく怖い。 ロミは思わず荷物の詰まったリュックを投げつけた。 それはあっさり払い落とされた。 「ン〜フフフフフ‥‥いけない子ねぇン、 大切な荷物を投げたりしちゃ駄目じゃな〜い?」 「おじさん‥‥‥‥だれ!?」 「フハハ、ワタシは君のパパの知り合いだよ」 「!‥‥‥‥」 ロミは自分の父親が“よくない”事をしているらしいのは薄々気づいていた。 つまりこの男は“よくない知り合い”。 それでなくともカーマのドス黒い「悪意」はロミにひしひしと伝わっていた。 手を差し伸べるカーマ。 「フレッドにこんな可愛らしいお嬢ちゃんがいたとはねぇ‥‥。 さぁ、おいで」 「やだ‥‥!」 ロミは拒否した。後ろは壁。 逃げ場のないロミにカーマは悠々と接近した。 「君は、賢い子だね‥‥」 カーマは優しく、さとすように言った。 「うんうん、知らない人についていっちゃいけないね〜、 まだ12才なのに、いやもう12才か。うんうんそれくらいわかってて当然だねぇ」 金属の掌がロミの頬に触れ、優しく撫でる。冷たい感触にロミは震えた。 「た‥‥たす‥‥け‥‥」 次の瞬間、ロミの額に当てられた指先から弾くような電圧が流れた。 「!!‥‥」 ロミの頭が震えた。 一瞬で意識が遠のき、ロミはその場に崩れ落ちた。 ウキウキ気分のカーマ。 「ヤー!死んでいないわねン?うまいこと電圧を加減できたワ! こんなに手間ァ取らせてくれちゃってホントにいけない子ねぇン、 これから一晩かけてたっぷりイジめてあ・げ・る‥‥☆」 気を失ったロミを強引に抱きかかえ、いそいそと部屋を去ろうとしたカーマの目に 壁にかかった野球帽が目に入った。 「これロミちゃんの?そうねぇこれからお出かけするから かぶっていこォ〜ネ〜♪」 野球帽を取るとそれをちょうどロミの顔を隠すようにかぶせた。 「おい変態、その子を放しな」 ドアの前に、猟銃を構えたオノーが立っていた。 自分に銃を向けている男を見てカーマは顔をしかめた。 「猟銃持って人様の家に不法侵入?あんた最低ネ」 「お前にだきゃ言われたくねぇやな。そういうお前は不法侵入した上に 誘拐までしようとしてるだろぉがよ‥‥!」 「誘拐とは失敬ネ!“テイクアウト”って呼んでほしいワ。 お持ち帰りヨ」 「ほざいてろ。さっさとロミを放しな」 引き金にかけていた指に汗がにじんでいた。 オノーは脅威を感じていた。 「銃を向けている」オノーの方が脅威を感じていた。 なんなんだこいつは‥‥? 銃を面と向けられてもヘラヘラしてやがる‥‥。 銃を向けられて平然としている。 ロミと自分が看病したあの男と同じく、こいつもただのチンピラじゃあねえ。 いや、あの黒い男からは物静かな「品」を感じたが、目の前にいるこいつからは 邪悪な「卑らしさ」を感じる。 「いいか、これが最後通告だ。‥‥その子を置いて、ここから、消えろ」 オノーは最後通告を放った。 「はァ?」 カーマは鼻で笑った。 「じゃあこちらも最後通告ヨ」 「はああ!?」 カーマは目の前にいる、猟銃を構えた小汚い老人を見下ろした。 「アンタが消えて‥‥☆」 白い歯をニカリと見せながら言った。 「な、なに‥‥?」 「今すぐ消えて☆」 オノーは得体の知れない不気味さに飲まれていた。 恐怖に捕らわれていた事が、オノーの反応を鈍らせた。 「!?」 銃口がカーマの金属の手につかまれ、塞がれていた。 「き、貴様‥‥!」 「あのさアンタ、撃つならさっさと撃ちなさいよ。アクビ出ちゃうワ」 「くッ‥‥‥‥!」 穏便に済ます気だったがもう迷ってはいられない。オノーは引き金を引いた。 銃口を塞いでいる手を砕くつもりで撃った。 炸裂音。 「こ、これは‥‥」 負傷したのはオノーの方だった。 硝煙の舞う中、オノーはドアから後ずさり、廊下の壁にもたれた。 熱い。そして痛い。 血に染まった自分の肩と胸を見て愕然とした。 目の前にはカーマが平然と立っていた。 その手には、大破した猟銃の銃先が握られたままだった。 暴発。 カーマの金属の手が、弾丸の発射を許さなかった。 「畜‥‥生‥‥」 オノーはもはや息をするのもやっとだった。 「丈夫でしょ、ワタシの手☆」 用を成さなくなった銃を離すと、カーマはその手を握り締め、振りかぶった。 「消えて☆」 瞬間。 黒い影が差し込んだ。 |
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