『ANGEL』
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| レプタイルは跳んだ。 視界に血まみれのオノーと“敵”が映った瞬間に。 超人的な跳躍はみるみる両者の距離を縮める。 相手の頭部を捕捉し、蹴りを放つ。 “始末屋”の蹴りが、顔面にめり込んだ。 オノーの顔面に。 「!!?」 レプタイルは愕然とした。 ミスではない。 レプタイルの完全なる不意討ちに対し、この敵は老人の体をつかみ素早く盾にしていた。 ロミを抱えながらも“爬虫類”を欺くスピードで、それを行った。 なんという反射神経。否、“神経”。 「オォ〜ウ、アクシデェーント!君は罪な男だ☆」 オノーを盾にほくそ笑む敵に対し、レプタイルは次の攻撃動作に入った。 「そこまでだ!罪な男“レプタイル”ッッ!!」 「!?」 レプタイルの目の前に広げられた金属の五指が「制止」を促していた。 「私は『ANGEL』のボス、カーマ・ギア!」 「‥‥‥‥。」 「これ以上我々に関わるな。我々も君に干渉はしない。それで終わりだ。 裏社会の定義、君は熟知しているはずだ」 「‥‥‥‥。」 「我々のやり方に部外者の君が口出しする権利は、ないッ」 カーマは言うが早いかオノーの体を突き飛ばした。 速い。 レプタイルがオノーの体を受け止めた時には、敵はロミを抱え、廊下の窓から 姿を消した。 急いで窓から下を見下ろす。 速い! 敵はすでに数ある道のいずれかへと消えていた。 もう追っても間に合わない。この辺りの入り組んだ道は、明らかに相手の方が熟知している。 「!‥‥‥‥」 見失ってしまった。 「車出して頂戴!」 突然帰ってきたカーマに、運転席で待機していた張は驚いた。 カーマはさっさと後部座席に乗り込み、毛皮のコートにくるまっていた少女を転がす。 「あ、あの‥‥その子って‥‥」 「噂のロミちゃんをテイクアウトしてきたワ。今夜はお楽しみヨ☆」 「そ、そうすか‥‥」 ロミの行く末を憶測し、張は更に嫌な気分になった。 「ほらさっさと出す!“爬虫類”が来るわヨ!」 「え、ええッ!?」 子供を拉致るのは自分のやり方じゃないが、レプタイルは怖い。 張は慌ててアクセルをふかせた。 「今からワタシの言う場所へ行って頂戴」 「は、はいっ!」 「アジトの一つでね、い〜い雰囲気の所があるのヨ‥‥」 カーマはほくそ笑んだ。 走り出すベンツ。 「メインストリートへ出てまずは9番街をまっすぐ行って頂戴」 「はい‥‥」 「すまない‥‥」 レプタイルはオノーに駆け寄り、助け起こした。 「ホントに‥‥すまねぇよバカヤロが‥‥」 息も絶え絶えのオノーが毒づいた。白衣が血に染まっていた。 「こんな物ぁカスリ傷だ‥‥それよりロミだ‥‥」 「‥‥‥‥。」 「フレッドはもういねぇんだ‥‥あの子を守れるのはもう俺しかいねぇんだ‥‥」 レプタイルはオノーを見た。 命に別状はなさそうだが、動くには危険な状態だった。 「オノー、手当ては自分でできるな?」 「‥‥ああ?」 「ここでじっとしていろ。あの子は俺が探し出す」 「‥‥ああ!?ほざくんじゃねぇやヨソもんの手は借りね‥‥いぃッ!」 傷が痛みにオノーはうめいた。 「お前ではどうにもならない」 「!‥‥‥‥」 「寝ていろ」 傷の痛みと、レプタイルの冷厳な目と声に、オノーはやっと静かになった。 「わかったよ‥‥しかしだ、あんたロミを探すったってどうすんだ?」 「心当たりはある。賭けに近いが」 レプタイルは出口へと向かった。 オノーがその背を見送る。しかし、腑に落ちないものがあった。 「なぁあんた‥‥」 レプタイルは足を止めた。 「‥‥なんだ?」 「なんであんた、そうロミにかまってくれるんだ?本当ならあんたは こういう事にはあまり関わりあいたくねぇはずだろ? ましてや相手は組織のボスじゃねぇか」 「‥‥‥‥。」 その通りだ。自分とあの子には別に深い縁はない。 負傷した所を助けてもらった恩はあるが、マフィアと正面きって敵対するのは 今のレプタイルには危険すぎる。 裏社会に生きる者が取る行動ではない。 なぜだ。なぜロミを助ける事にそんなにこだわる? 「‥‥時間がない。行って来る」 レプタイルは答えず、外へと出て行った。 陽はほとんど沈みかけていた。 もうすぐ夜がやってくる。 闇がまた、やってくる。 |
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