『ANGEL』
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| 「ハァ、ハァ‥‥」 ロミは走った。今までの12年の人生の中で一番一生懸命に走った。 扉を開け時計台内部に入り、出口を探したがそれらしいものは見当たらなかった。 仕方なしに脇にあった階段を上る。きっと上に出口があると信じて。 階段で上った先にはわけのわからない機械の制御盤しかなかった。 しかしすぐ横に太い梁があった。 手すりを越えればあの上を移動できない事はないが‥‥‥‥怖い。 30mほど下では歯車がゴトゴトと音を立てて回っている。 運動神経には自信はあるけどもし落ちたら、絶対死んでしまう‥‥‥‥怖い。 ふと下の方で、自分が入ってきた扉がまた開くのが見えた。 そこから入ってきた人物を見た瞬間、ロミは迷わず梁の上を行った。 怖いなんて言ってられない! 天井に張られた梁の上をロミは走った。 「あ!」 梁を渡った先に扉があった。 「外に出られる!」 やっと巡ってきた希望に救われる思いがした。 ノブを握り締め、思いっきり回す。 開かない。 「開いて!開いてよぉ!」 扉をガンガン押す。引っ張る。 しかしビクともしない。 「な、なんで‥‥!?」 もう泣きそうだったロミの耳に下から『声』が聞こえてきた。 『ロォ〜ミちゃわわ〜ん、あ・そ・ぼ☆』 「〜〜〜!!!」 顔から血の気がひいた。間違いなくあの男の声だった。 ロミはすがる思いでドアを叩いた。 「開いて!開いて!開いて!開いて!」 ふと、ドアノブの横に手動の鍵を見つけた。 「!‥‥‥」 それに指をかけ、そっと下ろす。『カチリ』と音がした。 そしてノブを回すと、ドアは開いた。 「やった!よかった‥‥」 ロミの目の前にヘブンズヒルの夜景と星空が広がった。 冷たい風が吹いた。 大時計盤へと出る扉。そこから先はわずかな足場以外何も存在しなかった。 「おやおや‥‥?」 梁の上を渡っているカーマ。 その先に扉が見えた。 開けられた戸が風で揺れている。 「うっふふ、どうやらあそこから出たみたいねぇん‥‥‥‥そいやァァァ!!」 おもむろにカーマはしゃがみ込み、梁の下へ手を回した。 「ゲーッツ!」 「うわああ!!」 引き上げた手はロミの首根っこをつかんでいた。 「うぅう‥‥」 「ホホホ、いけない子ねぇン☆ ワタシをホーム・アローンに出てくるようなマヌケな悪役と 一緒にしないで頂戴。あんたみたいな子供は『ニオイ』でわかるのヨ!」 「うぅ‥‥」 「あの扉から出たように見せかけて、梁にぶら下がってワタシをやり過ごそうと したわけェ?子供のくせに腕力あるわね。学校の体育の成績はA? まったく親子揃ってワタシをたばかるたァいい根性してるじゃな〜い?」 「パパは‥‥悪くない‥‥!」 「はぁ〜?‥‥い〜い?あんたの父親はぁ、ワタシのお金を盗んだぁ、 ド・ロ・ボ・ウ野郎なのよ!だからワタシが黒コゲにしてやったのよ‥‥!」 「悪い事をして手に入れたお金でしょ‥‥? おじさんは‥‥悪魔だ‥‥!」 「はぁぁン‥‥!?」 ロミの首を握る力が強くなった。 「うああ‥‥!」 「‥‥お〜っと、ワタシとした事が子供相手にムキになっちゃったワ。 い〜いロミちゃん?あのね、ワタシはね‥‥よく聞きなさいヨ?」 冷たい親指でロミの喉元をグイグイ押しつつ言った。 「う、う、う‥‥!」 「ワタシは『ANGEL』。この素晴らしい国ガイアを守護する天使! 愛を歌い、何者も恐れず戦う天使! さぁ、いい子だから言ってごらんなさい、『あなたは天使です』と」 「だ、だれが‥‥」 ロミは歯を食いしばった。 「あらあらロミちゃんたらいけない子ねぇン☆ ちょーっと下を見てみそー?」 宙吊り状態のロミの30mほど下では巨大な歯車が回転していた。 「‥‥!」 「言わないと手離しちゃうわヨ?ここから落ちて歯車に飲み込まれて 内臓とかはみ出て骨とかバッキバキ折れまくって死ぬわヨ〜?」 「‥‥‥‥。」 「さぁ、言ってごらんなさい。ワタシは何?」 「おじさんは‥‥‥‥可哀想な人だね」 ロミの目は、冷めていた。 「‥‥‥‥は?」 「そうやって、脅かして言う事を聞かせてるんだ。 そんな事したって嫌われるだけなのに‥‥」 その目はまっすぐカーマを射抜いていた。 「‥‥‥‥『あなたは天使です』と言え」 「言わない」 「言え‥‥!」 「おじさんは天使じゃない」 「‥‥‥‥ふぅ」 カーマは空いている手の指を小刻みに動かす。 『キャリキャリキャリ‥‥』と耳障りな音が響いた。 「ちょっと痛い目みてみる? ワタシね、ロミちゃんみたいに言う事聞かないコマッタちゃんに 言う事聞かせるの、得意なの☆」 そして人指し指を立ててロミの目の前にやると、『ブゥゥ‥‥ン』と音がした。 白銀の人指し指が、ぼんわりと光を帯び始めた。 それは青白く、光っていた。 ロミの顔にも、それは熱となって伝わってきた。 「わかる?今この指にね、スッゴイ熱が集中してるのヨ‥‥」 「え‥‥」 ロミは、この男が何を考えてるのか薄々とわかってきた。 「これを人の体に当てるとね、ヤケドじゃ済まないのヨ〜? これをお腹にズブズブ刺して引っかき回すとね、胃袋とか腸とか炭化しちゃって 炭化ってわかる?朝、食パンをトースターで焼き過ぎると黒くなって ボロボロになって崩れちゃうでしょ?あんな感じ。 そうなっちゃうともうお医者様でも治せないのヨ。 どう?素直に言う事聞く気になった〜?」 「あ、あぁ‥‥!」 直に突きつけられた恐怖に、ロミの顔は青ざめた。 「フフファハハハハそれでいいのヨ!素直に恐怖なさいな! でもロミちゃんへのオシオキは‥‥」 カーマは自分が来た方向へ向き直った。 「ちょーっとお預けみたいねぇン‥‥」 同じ梁の上に、黒衣の男が立っていた。 「おじ‥‥さん‥‥」 ロミはその男を見た。 影のごとく黒い装束を纏い、影のごとく静かに接近し、影のごとく 暗陰としたオーラを纏ったその男の出現に、しかしロミは安堵した。 始末屋レプタイル。 彼はカーマと面と向かい合っていた。 「‥‥‥‥。」 「よくここがわかったわねえ。ていうかアンタ何しにきたの? “超一流”の看板を持つアンタが、何の依頼もなしに、 なんでワタシの前に立ってるわけェ?」 「‥‥‥‥。」 依頼人は、俺自身だ。 俺の魂が「あの子を救え」と言っている。 俺の肉体が「あの男を黙らせろ」と言っている。 理由はそれだけで十分だ。成すべき事は、一つ。 「‥‥お前を、始末する」 サングラスの下の青い目が、カーマ・ギアを捉えていた。 |
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