『ANGEL』
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| 「ピンと張るとね、かえってダメなのヨ」 指先を伸ばし、親指を軽く曲げた。 手刀を形作った右手が光を放つ。 青白い光に照らされたカーマの表情は、幽鬼を彷彿とさせた。 「カラテじゃ『ヌキテ』っていうらしいけどねぇ、 このほどよい角度がね、一番切れ味がいいのヨ‥‥」 幽鬼が笑った。 2人が立つは梁の上。逃げ場は無い。 「‥‥‥‥。」 レプタイルは攻撃に備え、両手の平を静かに上げる。 カーマはせせら笑った。 「ああ言っとくけど、手で受け止めようとか考えない方がいいわヨ。すんごく熱いから」 手刀を構え、接近する。 「フハァー!」 レーザーアームが振り下ろされる。 素早く身を引くレプタイル。黒いコートの端が斬られた。 斬られた後がかすかに焼けていた。 レプタイルは間合いを取った。 「ホホホどーすたの?自慢の脚で蹴ってきてもいいのヨ〜? アンタの脚とワタシのレーザーアーム、ぶつかったらどっちが勝つかしラ?」 考える間でも無い。いかに始末屋といえども素手素足で超高熱の刃を受け止める事はできない 。 「ン〜フフフフ‥‥」 そう。レプタイルと言えども人間。不死身の超人ではない! 計算を張り巡らし、着実に危険を減らし。優勢を保てば。負けるわけが無い。 そう。今までと同じ‥‥きっとまたかぐわしい勝利の美酒を味わえる。 それも今までの中で最高の味の。 カーマは声高に叫んだ。 「ワタシは“天使”!」 全てが自分に味方してくれている! 「アーオ!」 奇声と共にカーマは突進した。 上半身を前面に押し出しての低姿勢。それで急接近したかと思うとおもむろに 手刀を突き出した。 電熱を帯びた、地獄突き。 「!!」 レプタイルは身をよじったが回避しきれない。 カーマの手刀が胸板をかすめた。 「‥‥ッ!」 焦げた匂いと火花が散り、レプタイルは苦痛に顔を歪めた。 かなり危険なダメージだった。 「フハ☆」 カーマは笑みをこらえきれなかった。 勝てる!“爬虫類”に勝てるッ!思ったより余裕じゃん。 勝利が確実な物になってきている事をカーマは感じた。 「フハハ、アンタには悪いけど、も〜っと意地悪するわヨ!」 言いつつ左手を振った。 『ヴゥ‥‥ン』と機音を放つと、その手もまた青白く光るレーザーアームと化した。 「二刀流、いっくわヨォ〜!?」 2つの手刀を構え、ラッシュをしかけた。 稲妻の槍が雨あられに降り注ぐ。 「ボロ雑巾におなりッ!」 レプタイルは両の手を差し出した。 「!?」 稲妻の雨は一瞬にしてやんだ。 レプタイルの両手は、熱の及んでいないカーマの「手首」をつかんでいた。 「ワオ‥‥」 この冷静な判断力。 「アンタ、いい目してるじゃな〜い?」 ふてぶてしく言い放つカーマに、レプタイルはその顎への蹴り上げをもって応えた。 「んが!?」 カーマの目が上を向いた。 レプタイルは両手を離すとその場で体を捻る。 「!!」 バックスピン。横殴りの裏拳。 それに続きボディブローも叩き込まれ、カーマの体躯が「く」の字に曲がった。 「はぁン!?なめんじゃないわヨ!」 手はまだ電熱を帯びたまま。 「切れろォ!」 立ち直るとカーマは水平の手刀を浴びせた。 が、レプタイルが上半身をくねらすとそれは空を切った。 「んあ!?」 そして。 カーマの頭に遠心力を持った後ろ回し蹴りが返礼となって返ってきた。 「〜〜〜!!!」 星が散った。カーマの意識が揺れた。 「なッ‥‥」 なにヨこいつ。華麗じゃん。 「クッ!」 間合いを離さんと、カーマは大きく後ずさった。 レプタイルがみすみすこの流れを止めるわけがなかった。 黒い影が大きく跳躍する。 「!?」 次の瞬間、レプタイルはカーマの頭上に存在していた。 軽業師のごとく逆立ちの状態で、カーマの頭を両の手で捕らえていた。 「アンタ‥‥まだなんかする気!?」 レプタイルはその両腕を捻った。極まる。 「ンガハ!?」 さらに体を一回転させ、投げ捨てた。 乱暴に投げ捨てられたカーマの体が梁に叩きつけられ、バウンドする。 「ッ!!!」 意識が朦朧としつつもカーマは金属の爪を梁に食い込ませ、落下を防いだ。 「ハァ、ハァ‥‥!」 梁の上でうずくまるカーマの耳に、死神の足音が響いた。 心臓の動悸が早まる。 (大丈夫‥‥『間に合う』‥‥!) カーマは勝利を確信していた。 |
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