薔薇の咲く夜に


「いかがでしたか」

 街の中心部から離れ、海岸沿いの国道を東に向けて走り始めた頃。窓の外に顔を向けるモニカに、ヴィンセントはミラー越しで尋ねた。

「ん?ああ……ブガティーニ(穴の開いた太麺)は評判通りだったよ。パスタの美味さで、その店の全ての味が分かるというからな。さすが、ミシュランの4つ星を誇るだけの事はある」

「そうではなくて。……今日の会食に来た、政治屋達の事です」

「分かってる。冗談だ」

 人差し指で頬を押さえ、『美味しい』とジェスチャーをするモニカに、ヴィンセントは思わず苦笑いを浮かべる。隣でクスクスと笑っていたミネルバが代わりに答えた。

「どうにか現行の対策法を通す事で落ち着いてもらったわ。彼等に対する、市民やメディアからの反発は必至でしょうけど」

「そうか。では、市民運動の規模も一層広まるだろうな……」

 ヴィンセントの声に、改めて落胆の色が混じる。

「まあ、現状維持となっただけでも御の字という事だ。連中、相当渋っていたがな」

「……これと似たような事件が、今後も起きなければ良いのですが」

「……そうだな」

 モニカは傍らに備え付けてある煙草盆に手を伸ばすと、引き出しから刻み煙草を一つまみし、手にしていた煙管の火皿に詰め込んだ。

 いつもと変わらぬ仕草であったが、らしくもなく、わずかな葉をドレスにこぼしてしまう。モニカはわずかに眉間にしわを寄せると、片手でそれらを払い落とす。

「(やはりお疲れのようね……)」

 横目でモニカをちらりと伺(うかが)い、ミネルバは小さく息をついた。


 


第3話に進む
第1話に戻る
図書館に戻る