デートは命懸け


「最近は、場をわきまえないバカが増えたようだ」
 モニカ・ベェルレッタは面白くもなさそうに、強盗たちに冷やかな視線を送っていた。

 彼女は、イタリアのシチリア島を拠点とするマフィアファミリーのボスだ。
 日本に来た理由はいろいろあるが、今日このホテルを選んだのは、イタリア料理が絶品と言う理由だったのだが、この始末だ。
 機嫌も悪くなる。
「テロリストに品位などありませんよ」
「せっかくのディナーが不味くなったな」
「帰りますか?」
「ああ。だが、大衆はしっかり保護しろ、イイな。それが品位だ」
「わかってますよ、ドン・べェルレッタ。ヤツらの銃が厄介ですがね」
 男たちが頷く。
 一団は強行突破でレストランを出るつもりだった。
 大衆の保護と言うのは、他の客の命も守ってやれと言うことだ。
 彼らはマフィアだが、いや、マフィアだからこそ、弱者を敵に回すわけにはいかないのだ。

「……面白い話をしてるッスね。ボクも混ぜてもらって良いッスか?」
 と、唐突に、一団の足元から声がした。

「なっ…!?」
「うろたえるな」
 慌てる男たちを、モニカが制する。
「そうそう、騒ぐと怪しまれるッスよ。それに、そちらの女性は気づいてたみたいッスし」
 悠浬はテーブルの下から頭だけ出した。
 ちょうど、モニカの股の間だ。
「ありゃっ…、これは失礼したッス」
「で、何をしに潜り込んできた?」
 顔を微かに赤らめる悠浬に、モニカは平然とした態度で応じる。
「あなたたち見た感じ、『ソッチ方面』の人っぽいから、協力してくれたらラッキーかなっと思ったッス」
「『ソッチ方面』か。アイツらの仲間だとは思わないのか?」
「いや、その時は一緒に逮捕しちゃえば良いだけッスから」
 あっけらかんとした口調で悠浬は言い切った。
「逮捕。警官か?」
「見えないッスか?」

 頬を掻く悠浬。
 童顔にサラサラの髪。
 敵意はまったく無いというような爽やかな笑顔。
 きっと、人を殺す時も、この表情のまま、この喋り方のままに違いない。
 モニカは本能的に、「悠浬は危険」だと感じた。

「いや、おまえは警官だ。それもとびっきり危険な、な」

「そんなことないッスよ。それで、協力してくれるッスか?」
「良いだろう。面白い」
 モニカの返事に、悠浬は満足げに頷いた。
「それが良いッス。正面突破は被害が大きいッスから」
「で、どうするのだ?」
「ボクの合図を待ってから、一気に畳みかけて欲しいッス」
「合図は?」
「停電させるッス。すぐに明るくするッスから頼むッスよ」
 それだけ言い残して、悠浬は再びテーブルの下に消えた。


 


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