デートは命懸け


「要求の準備をしろ!」
 顎鬚のリーダーが仲間のテロリストに指示を出していく。
「社会の為に正義を行使する。今の政府は人民から搾り取れるだけ搾り取る蛆虫どもだ」
 顎鬚は店中の客に自分たちの行動を弁護するように大声を張り上げた。
「俺たちは銃を手に取った。だが、そうさせたのは社会だ。社会を正そうとしない政府だ」
 顎鬚の傍らに控えていた禿げ頭の男が手に持っているトランクを開いた。
 その中から通信機械器具らしきものを取り出すと、近くにいた眼鏡の男が慣れた手付きで組み立てていく。
「俺たちが切り崩してやるんだ」
 顎鬚の言葉にテロリスト全員が頷く。
「頼むぜ、相棒」
 禿げ頭の男が、しゃがんで機械を動かす眼鏡の男に声をかける。
「ああ、くそったれ政府に思い知らせてやるよ」

「いや、思い知るのはキミたちだったりするッス」
 眼鏡の男がしゃがんでいる隣のテーブルから声がした。

「はっ?」
 眼鏡男は思いがけない返答に声がした方を向いた。
 鉄拳。
 眼鏡が潰れた。
「ぐああ!?」
「何だ!?」
 禿げ頭が銃を構えるが、視線の先にいるのは伸びている眼鏡男だけだ。
「後ろッス」
 後ろから声がかかった。
「!!」
 禿げ頭は殺気を感じて反射的に振り返った。
 銃を持った腕に何かが絡みついた。
「ぬおっ!?」
 次の瞬間、男の腕の骨が砕け散った。
「ぐぎゃあああああ!!」
「ちいっ、何者だ!?」
 顎鬚のリーダーがようやく相手を捉えた。
 他のテロリストの銃口も全て、その相手を囲むように向けられている。
 相手、緋龍悠浬は平然として腕を砕いた禿げ頭を地面に叩きつけた。
「警察ッス。全員現逮ッス」
「正義の味方気取りのバカか」
 顎鬚は憐れむような視線で悠浬を見る。
「この状況で、一人で正面から来るとは…バカの極みだな」
「バカバカ言わない出欲しいッス。これでも国立大学出てるッス」
 髪の毛を掻き上げながら、悠浬が反論する。
 悠浬の受け答えに馬鹿にされているのは顎鬚の方だ。
 顎鬚の顔が怒りに紅潮した。
 男が片手を上げる。
 一斉掃射の合図だ。
「……蜂の巣になりな!」

「ひーちゃん!?」
 端のテーブルでそれまで成り行きを見ていた雪絵が悲鳴を上げる。
 ああっ、ひーちゃんが殺されちゃう!?

 真っ青な顔で震えている雪絵に、悠浬は、ウィンクした。
 瞬間。
 悠浬の姿が闇に飲まれた。
 いや、正確にはレストラン内全てが闇に包まれた。
 店中の照明が一斉に落ちていた。


 


第5話に進む
第3話に戻る
図書館に戻る