ダウン

U


冬。
島国、ガイア共和国は冬を迎えていた。
冷たい空気が街頭に満ち溢れ、空は夏の数倍高く、
それに負けず劣らず高き摩天楼の下、

「はー・・・」「はー・・・」
奈落の底よりも深そうな溜息を、二人の男がついていた。
見た目は二人ともほとんど同じ――全身赤と黒という差、以外。
二人の名は、グラス兄弟。
細かく言うとブラックグラスにレッドグラス。
ここガイア共和国の国家元首を直々に護るボディーガード、
「はあー・・・」「はあー・・・」
・・・・この様を見る限り、あまりそうは思えないが。

「どんなんだっけか?弟。」「フカヒレツナマヨシュールストリームまんだよ、兄者。」
ぴらっとメモを取り出して、レッドグラスがぼやいた。
「フカヒレまんなら知ってるが・・」「何故世界一くさい缶詰のなんだろうな・・」

「くっそ、あんの怪奇!コロネ女・・」「どんな中華まんだよ、っくそう!」

「・・・っつか、夏にパシリにしないって言ってたような・・」「そんなこと昨日まで兄者も忘れてたじゃないか!」
などと微笑ましい会話をしつつ、
それでも二人はしっかりとコンビニへと足を向けていた。


誰かがカウントダウンを告げている。
少しづつ・・・少しづつ・・・しかし、着実に、数が消えていく。
誰にも止められない、巨大な目覚まし時計。

長崎重臣はそれを叩き壊そうとライフルを構えた――・・・

「ナガサキ。起きろ。」
ふいに頭上から聞きなれたしわがれ声がして、彼は目を覚ましサングラスをかけた。
そこに、キルマー・バレンタインがいる事を確認して、

もう一度寝ようとした。

「ナガサキ!!」
二回目の叱声に仕方無しに長崎はソファーからむっくりと起き上がった。
ここは、ゴライアス・ガーデンの廊下。エレベーター前である。
「なんだよキルマー・・どうした、なんかあったのか?」
「その『なんか』が今、目の前で起こっている。」

そうキルマーが唸り、指さした周囲に、ここの警備員の骸が、
累々と転がっていた。

「ああ・・・・これか・・・・」
ナガサキは、ボリボリと頭をかいて、チラっとエレベーターに目をやった。
一台、この階に降りてくる。
チーン♪と、音を立ててエレベーターのドアが開き、
グラリ・・と、警備員が中から倒れこんできた。
その背後に、
金髪をコロネのように巻いた少女が一人、
なにやらどす黒い物体を大量に詰め込んだかごを持ち、立っていた。
「お、キル爺!。」

風貌に似合わずざっくばらんにキルマーに挨拶をして、
警備員をまたいで歩み寄ってくる。
そのかごから『駅に持っていったら通報される』レベルの異臭が漂っていた。

「ケーキ焼いたんだ、ちょっと食ってみてくれよ。
 キル爺はこいつらと違って味が分かるよなあ!!」
明朗快活にそう言って、『黒魔術で使いそう』レベルの怪しげな物体を、
血の気が引き潮の如く引いていくキルマーに差し出した。
足元の「こいつら」の口元には、強引に押し込められた物体が、顔を覗かせていた。

「・・・・・んじゃ、おれはそーゆーことで。」
そそくさと、硬直するキルマーを背に、長崎はエスケープした。




『この冬限定!フカヒレツナマヨシュールストリームまん!!』
と、書かれたコンビニの旗を前に、グラス兄弟も硬直していた。
「あ・・・・」「あるもんだ・・・」



カウントダウン スタート。


 


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