ダウン

W


「走るのだ弟っ!!!」「いや、そう言いながら思いっきりオレの前走るなよ兄者っ!!!」

ヘブンズヒルにたちこめる黄色いガスから逃れるため、
人々は走り出し、パトカーは急行し、混乱を収拾するべく集った警官隊が、
混乱に更に拍車をかけ、そこは押すな押すなの大騒ぎとなった。
そこで先陣を切り駆ける二つの陰!!

グラス兄弟である。

「うおおおおおおっ!!!」「がああああああっ!!!」
奇声を上げつつ人々の合間を駆け抜ける二つの疾風。

けど、ガスは真後ろに迫っている。

「ぬおおおおおおおおっ!!!!」「でりゃあああああああっ!!!!」
力んで走るは良いものの、だんだんとやっぱりガスは背後に迫る。

「とああああああああああああっ!!!!!」「せいやあああっ!!スマン、兄者!!!!」
レッドグラス、じつの兄に足をひっかけ。

「ぐああああああっっ!!!!」と、景気良くすっころぶブラックグラスを足蹴に、
嵐のように去っていく。

「て・・てめええええっっ!!まちくさ・・・れ・・」
立ち上がろうとしたブラックグラスの視界は、
既に黄色いガスに満たされていた。

「ふ・・・ふおおおおおっっつつう!!!!●×△□☆дΦ!!!!」
半分以上壊れつつ、ブラックグラスは呻いた。
「%c※@▽・・・・・・あ・・・あれ・・・」

・・・・・呻ける、あえげる、息が吸える。
苦しくもなんとも無い。
・・・・ちょっとくさいけど、なんともない。


「・・・・・・・」
ブラックグラスは何がなんだか分からず、未だ混乱に襲われている街を振り返った。


ガスは、発生した場所から急激に広がった。
あっという間にスラム街や商店街を包み込み、
そのままヘブンズヒルの至る所で悲鳴や怒声、奇声が上がる。

窓にへばりついて、長崎はこの風景を眺めていた。
風向きからガーデンにまでガスは来ないと分かったが、
長崎は底知れぬ不安を感じた。
脳裏に、何故か、あのカウントダウンが唸っていたのだ。


デジタルで機械的な音を立て、少しづつ、着実に、カウントダウンが・・




『本日、午後三時ごろ、ガイア共和国首都へブンズヒルにて、
 大掛かりな生物化学テロが発生しました。死傷者はいない模様です。』

『今回使われたガスは、黄色く着色したガスに、ある種の刺激性臭気を配合したもので、
 人体にはほぼ無害でした。今回のテロは、人的被害より、
 社会的な混乱を狙ったものと思われ・・・・』

『毒ガス兵器は見た目では判断が難しく、
 専門家でも判別は難しいものであり、やはり心理効果を狙った・・』

『犯行声明文や、要求がなされていない所から、
 大掛かりなテロというより愉快犯の犯行による可能性が強く・・』

『うおお〜〜っ!!きまったあ〜〜!!マッスルミレ二ア・・』

『愉快犯の犯行という方針で当局が捜査を進めていますが、
 ガスを噴出した乗用車は、自爆したのではなく、
 捜査の結果外部からの衝撃で破壊されたとの見方が・・・』

『破壊された乗用車の中から、爆発物や毒ガスボンベの痕跡は確認できず、
 当局も首をひねらせております。』

『♪貴方は私の前から突然・・』

『大統領、ゴライアス・ゴードン氏は、
 次のような政府の公式見解を示しております。
 「大変痛ましい事件であり、許しがたい。
  罪も無い市民にこの危機を伝えられ無かった事を、深くお詫びしたい。
  市民のためにも、世界平和のためにも、
  犯人逮捕に全力で当たらせる。」この力強いコメントに・・』


サロンでブラウン管に映る画像を一通り見て、
ゴードンはテレビのスイッチを切った。
そのまま、ソファーにもたれかかって、何か考えるような遠い目をした。
サロンの入り口では、ミューがとキルマーが・・

「ゴードン様にあたしの手作りクッキー☆持ってくんだよっ!!どいてキル爺!!」
「たわけえっ!!国家の非常時に閣下を殺す気かぁっ!」

突然に、ゴードンが口を開いた。
「・・・ナガサキは、どうだ?」

「まだ情報収集にあたっております・・・」
キルマーが、原爆級大量殺戮兵器を掲げるミューを止めつつ言う。
収集が始まって三日。
思いのほか、手間取っているらしかった。
「ああんっ!・・ゴードン様!!っ―――(エコー)・・」

オスカルかアンドレのような声を張り上げつつ、
ミューはサロンの外へと押し出されていった。


 


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